研究概要 |
虚血性心疾患や臓器移植の際にみられる虚血ー再潅流傷害の克服は極めて重要な臨床課題であり,現在製薬企業による抗酸化剤の開発も,虚血ー再潅流傷害をタ-ゲットにしているものが多い。皮膚科領域においては,血行を保ったまま皮膚を他所へ移植する手技である皮弁において虚血ー再潅流傷害がみられ,生着限界を越えた皮弁の壊死過程の解明が注目されている。また,ラットを用いた実験的皮弁モデルは,比較的簡便であることから,虚血ー再潅流傷害を抑制する薬剤の開発の際のスクリ-ニングにも有用であると考えられる。われわれは,まずラット遊離皮弁をモデルに将来ヒトに使用可能であることとxanthine oxidase系の活性酸素産生経路とを考慮に入れ,xanthine oxidaseの阻害剤であるアロプリノ-ル,xanthine dehydrogenaseからxanthine oxidaseへの変換を介在するcalpainを含むcysteine proteinaseの阻害剤であるEー64ーc,遺伝子組み換えヒトSODをリポゾ-ム化したLーSODを実験に用いた。 その結果,アロプリノ-ル,Eー64ーC,LーSODの順に優れた壊死救済効果が認められた。Eー64ーCが奏功したことは,従来の抗酸化剤とは異なったアプロ-チとして注目されると共に,本剤が筋萎縮症の治療剤として開発された経緯から考えて,切断肢再接着術などの筋肉における虚血ー再潅流傷害にも応用が可能であることを示唆すると共に,ヒト皮膚および真皮血管内皮細胞におけるcalpainの存在から考えて,本剤の皮膚科領域での今後の臨床応用に期待がかけられる。一方,ラット背部に作成した有茎皮弁でも,同じ薬剤を用いて生着延長効果を検討した結果,LーSODのみに効果が認められた。このことは,有茎皮弁の壊死にも活性酸素産生が関与するものの,虚血ー再潅流メカニズム以外にも炎症や血腫などによる活性酸素産生などが複雑に絡み合っていることを示唆するものと思われる。
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