研究概要 |
ソルビト-ル産生に関与する酵素にはアルド-ス還元酵素(AR)以外にアルデヒド還元酵素の存在が知られており,これら酵素の意義については不明な点が多かった。そこで,腎糸球体由来のメサンギウム細胞でソルビト-ル産生にこれら酵素がどの程度関与しているかを検討した。その結果,ARがソルビト-ル産生量を調節している主要な酵素であることが明らかとなった。 ついで,本酵素の遺伝子発現の機構をARmRNA量及びAR活性を測定することにより検討した。先ず,メサンギウム細胞にARmRNAの存在を確認したのち,グルコ-ス,カテコ-ルアミン,グルココルチコイド,IGFーI等の添加がAR活性,ARmRNAに及ぼす影響を観察したが,活性,mRNA量共に有意の変化を示さなかった。そこで,浸透圧の影響を見るためNacl添加の効果を検討したところ,300mOsmの添加によりAR活性の増加とソルビト-ルの増量が生じた。糖尿病では高浸透圧状態が生じていることから,AR活性の変化が惹起されるのではないかとも推定されるが,Nacl濃度から非生理的な高値であるため,invivo状態における意義については今后の検討が必要であろう。 以上の研究結果からは,ソルビト-ルの産生量がAR遺伝子のレベルで調節されているとの確認は得られなかったが,浸透圧がAR遺伝子の発現に影響を与え得るとの成績は,今后糖尿病状態における浸透圧の変化とソルビト-ル産生との関連を検討する必要性を示唆している。更に,糖尿病患者におけるAR遺伝子の差異についても検討が望まれる。いずれにせよ,ソルビト-ル産生経路は種々の細胞機能障害と関係しているとの傍証が得られており,その詳細を明らかにすることが合併症の発生機序を解明する上で極めて重要であると思われる。
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