研究概要 |
本年度はクロ-ン病患者を対象に栄養治療前の活動期(侵襲時)と栄養治療後の寛解期(非侵襲時)とにおける微量元素(鉄・亜鉛・銅)動態を検討した。活動期症例21例に対し静脈栄養TPN(12例),成分栄養ED(6例),低残漬食LRD(3例)により寛解導入がなされた。血漿Fe,Zn値は活動期では健常域を下回るものが多く,寛解導入時に有意の上昇がみられたが、なお健常域を下回る症例がFe 9例,Zn 12例にみられた。一方,血漿Ca値は活動期では健常域を上回るものが半数にみられたが,寛解導入時には有意の低下を示した。血中Hb<12g/dl,MCH<28pgの症例8例に対し、Fe製剤60〜100mg/pを投与したが,血漿Feは1例を除き低値のままで推移した。またFe投与を要した症例は狭常を有する5例では全例必要とし、狭溶の無い症例では15例中3例であった.また、鉄剤補給例の寛解率は非補給例に比べて有意の低値であった(79.1±16.3%対94.2±62%,P<0.05). 亜鉛は活動期では血漿亜鉛値は低下を示す症例が多く,寛解導入期には有意の上昇がみられたが,なお健常人値を下回る症例が多く,長期経過において21例中11例に亜鉛(46〜68mg/p)の補給が必要であった.またLRDで治療中、寛解期に亜鉛欠乏症(皮診,血清アルカリフォスファ-ゼ値低下)を呈した症例が1例みられた。 銅は活動期には血清銅値は健常人値を上回る症例が多く,寛解導入期には有意の低下がみられたが,なお健常人値より高値を示す症例がみられた。また、観察期間における血清銅値とセルロプラスミン値上との間には有意の正相関がみられた。 以上,クロ-ン病の活動期(侵襲時)には鉄、亜鉛、銅の異常を示す症例がみられ、寛解導入期には改善がみられるが、なお異常を示す症例もなく、栄養管理中これらの微量元素の動態に注意が必要である。
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