原発腫瘍の外科的切除は転移巣の増大をもたらし、その背景には担癌宿主の抗腫瘍免疫活性の消長があると考えられる。本研究では異なる免疫原性腫瘍の多種の転移モデルを用いて、腫瘍切除後の転移促進現象の免疫学的機序とその防止策について検討した。用いた転移系は、C3H/MeJマウスのメチルコラントレン誘発(MCA)腫瘍の肺転移(MCAーF、MCAー2A、MCAーD)、リンパ節転移(MCAーSP)、腹膜転移、局所再発、およびC57BL/6マウスの大腫瘍癌MCー38の肝転移である。原発皮下腫瘍の外科的切除後の肺転移、肝転移増殖は促進し、腹膜転移も促進の傾向を示した。これに対し、リンパ節転移、皮下局所再発は原発巣切除による影響に対して抵抗性を示した。転移の促進は切除される原発巣の大きさと、担癌日数により影響をうけ、担癌日数の長い腫瘍量の大きな腫瘍切除でよリ強い転移増殖の促進がみられた。一方、原発腫瘍の免疫原性をみると、抗原性の比較的高い腫瘍でより強い転移促進がみられたのに対し、低免疫原性腫瘍では弱い影響をうけるのみであった。原発腫瘍切除前後の宿主に発現する抗腫瘍免疫活性をみると、原発腫瘍担癌の比較的早期には脾臓に腫瘍特異的転移抑制活性が出現した。その後、原発腫瘍の増大に伴い強い非特異的転移抑制活性が発現した。両者は腫瘍増殖に伴うconcomitant immunityとして、転移増殖を抑制していると考えられた。原発腫瘍切除によりこれらの抗腫瘍免疫活性が消失し、外科手術後の転移促進現象がひき起こされると考えられた。一方、原発腫瘍切除後の宿主脾には腫瘍特異的転移抑制活性sinecomitant immuntyが誘導されたが、その活性は小さかった。したがって、原発腫瘍切除後の転移再発の防止には、主として非特異的免疫療法によるconcomitant immunityの補充と、特異免疫療法によるsinecomitant immunityの強化の併用が必要であることが示された。
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