研究概要 |
本研究の目的は,中枢神経系奇形の発生病態を解明するとともに,何らかの治療手段により神経機能の回復をニュ-ロンの成長・発達の正常化とともにえることにある。その方法論においては,各発生病態に基づいた原因の除去とともに,神経移植等の可能性を検討するものである。さらには,予防医学的観点においては,癒合不全等に共通するovergrowthの存在に注目し,中枢神経系奇形の病態進行以前の発生段階における診断法を確立することにある。研究方法としては,動物実験による奇形モデルの確立に主眼を置き,全胚培養下における催奇実験を行った。Wister ratの胎仔を妊娠10.5日に母体外に摘出し,全胚培養下に移した。神経管閉鎖の経過を実験顕微鏡下に観察し経時的変化を追跡した。結果においては,培養条件として,20%O_2下において正常発育の経過が観察され,95%の高酵素分圧及びvit.A投与群で神経管癒合不全の発生をみた。これらの神経管癒合不全は中胚葉の発育は体筋の発達上正常過程にあることより,単なるdevelopment arrestではなく,神経外胚葉形により特異な催奇形性の要因によるものであることが推測された。また,vitamin A 100単位/ml中で妊娠9.5日から48時間培養した例において,神経管は未閉鎖状態であり,組織学的に神経極の著明な挙上,脊索の巨大不整化等の変化を認め,72時間後も同様の所見がみられた。胎仔・胎仔間移植は6例の癒合不全モデルに行い,3例に24時間の生存及び,移植神経のviabilityを確認した。全胚培養法による中枢神経系奇形の実験モデルの報告は極めて少ない。同研究成果には,本実験系の基礎デ-タが集積され,今後の奇形胎児の経時的観察,さらには移植法による胎生期奇形修復の可能性の追及に大きな手がかりが得られたものと考える。
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