研究概要 |
前年度に症例を重ねて20歳代から60歳代の正常日本人男子(各年代8ないし11名),および骨盤内手術後患者24名(膀胱癌12名,前立腺癌3名,睾丸腫瘍1名,直腸癌5名,結腸癌3名)において詳細な性機能測定を行った。検査法としてはドップラ-血流計,コンピュ-タ内臓陰茎勃起能測定装置(Rigiscan)等を用いて夜間勃起の回数,持続時間,最大陰茎硬度,陰茎周長増加量およびPBI(Penile Brachial Index,陰茎血流量の指標)等を測定した。 正常者群ではPBIは20歳代で86%であり,加齢により低下し60歳代で69%であった。夜間勃起回数は各年代4.1〜5.8回で年代間に有意差はなかった。陰茎硬度は20歳代で87.3%,年代を追って有意に低下し60歳代で63.5%であった(284gの張力と見合う硬度と100%とする)。陰茎周長増加量は20歳代平均5.5cm,年代とともに低下して60歳代で4.1cmであった。 骨盤内手術々後患者24名について上記と同様の検査を行った。PBIは68%で軽度の低下がみられたが有意差はなかった。夜間勃起能検査では24名中18名で完全消失していた。勃起能のみられた6名では回数2〜4回,持続時間30〜45分,陰茎硬度60%,周長増加量4.3cmでいずれも正常者群と較べ有意に低下していた。パパベリン注入による勃起能検査(血管の障害を調べるもの)では13名中の10名に良好な反応がみられた。 骨盤内手術々後患者の性機能は明らかに低下し,75%は完全に消失していた。この主因は上記の結果から神経系の障害によることが明らかとなった。このことは神経学的身体所見からも裏づけられた。手術に際し腰部交感神経幹(S_<2ー4>),陰部神経等の神経温存の工夫が今日種々行われているが,実際には神経の温存が困難な症例が多いと考えられる。癌の根治性の向上とともに神経温存の一層の工夫が望まれる。
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