研究概要 |
1.得られた新鮮な胞状奇胎組織は総合29検体となった。このうち初代培養が可能であった14例について染色体分析が加えられ,13例が46,XXのホモ全奇胎,1例が69,XXXの部分奇胎であった。2.新鮮な奇胎組織からDNAを抽出し18種類のOncogeneにてSouthern Blot Hybridizationを施行した所,どのOncogene DNAについてもその異常増幅や構造異常を認めなかった。時間の経過した手術標本からのmRNAの抽出は困難でそのかわりにIn situ hybridizationをおこなってみたところ奇胎組織のcytotrophoblastでmycが正常絨毛に比して濃染し過剰に発現していることが判明した。3.正常絨毛においては妊娠週数の変化とともにいくつかのOncogeneがそれに対応して増幅発現していることが判明した。4.胞状奇胎においては妊娠週数とは対応しないOncogeneのいくつかが同時にかつ過剰にexpressしていることが判明した。5.絨毛癌細胞株15種類についてDNA,mRNAを抽出しSouthern Blot Hybridization,Northern Blot Hybridizationを施行した。6.研究代表者はすでに絨毛癌細胞株について染色体分析を行ない著明なchromosomeのaberrationを報告しているが,それに反して絨毛癌細胞株に認められたOncogene18種類についてはその増幅や構造異常を認めなかった。7.しかし一方mRNAについてはNーmyc,myC,fos,fmsなどが同時に3ー30倍に過剰発現しているのが観察された。これが絨毛癌発生の原因であるのか結果であるのかを現時点で述べることはできないがこれらいくつものOncogeneが同時に過剰に発現していることが癌化と極めて深い関係にあることを明らかにすることができた。今後はその塩基配列上の変化,すなわちactivateされたものなのかどうかについてtransfectionを行なって時間はかかるが一つずつ解明していきたい。その過程で絨毛癌発生に関与するOncogeneを同定することも可能であると考えている。最後に本研究の成果が認められ第15回国際癌学会(ハンブルグ,1990)において招待演者となったことを付記する。
|