研究概要 |
本研究の目的はヒトの増殖性糖尿病性網症症例よりえられた手術標本を対象として,組織学的にその構造をあきらかにすることであった。この観察は形態学的手法とともに免疫組織学的手法を駆使しておこなわれた。増殖性糖尿病性網膜症にみられる増殖組織は、手術時の観察から硝子体中に増殖するもの(硝子体内増殖組織)と,網膜表面にそって増殖してゆくもの(網膜前増殖組織)に分けられた。硝子体内増殖組織は,形態学的にはほとんど新生血管のみからなる組織であったが,免疫組織学的検索によって血管以外に硝子体コラ-ゲンのほか,皮膚の間質にみられるI型,III型コラ-ゲン,細胞接着因子であるフィブロネクチン(FN)を含む細胞外物質からなることが明らかとなった。免疫組織学的観察から,いずれの症例においてもグリア細胞(GFAP陽性細胞)はみられなかった。このことは硝子体内増殖組織が形成される際には単に血管が硝子体中にのびてゆくだけではなく,種々の細胞外物質の産生をともなうことによって組織が形成されていること,その過程にはグリア細胞が関与していないことを示唆する。一方,網膜前増殖組織は,形態学的には他の疾患でみられる網膜上膜と異なり,常に血管を伴うことが特徴的であった。このことは増殖性糖尿病性網膜症において血管新生の傾向が著しいことをあらわしている。網膜前増殖組織の細胞間質にも,I型,III型コラ-ゲン,硝子体コラ-ゲン,FNなどが見られた。細胞成分としては,硝子体内増殖組織とは異なり,血管のほか免疫組織学的にグリア細胞と同定される細胞が関与していることが明らかとなった。これらの成果は,内外の学会(第93回,第94回 日本眼科学会総会,ARVO Meeting(1989,1990))において発表し,論文として投稿中である。
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