研究概要 |
1.選択性の高い交感神経α_1遮断剤である塩酸ブナゾシンは,正常白色家兎の眼圧を濃度依存性に下降させること,軽度の血圧下降を認めるが瞳孔径には影響を及ぼさず,重篤な副作用のないことを明らかにした。 2.前房内FluoresceinーDextran直接注入法によるFluorophotometryを用いて房水流量を,twoーlevel constant pressure法を用いて房水流出率をそれぞれ測定したところ,塩酸ブナゾシン点眼により房水流量は有意に増加したが,房水流出率は変化しなかった。したがって,塩酸ブナゾシンによる眼圧下降機序は,房水産生の抑制ではなく房水流出の促進,なかでもuveoscleral outflowの増加であると考えられた。 3.上頸神経節切除眼では,塩酸ブナゾシン点眼による眼圧下降は認められなかったので,塩酸ブナゾシンによる眼圧下降には交感神経終末からのノルエピネフリン放出が必要で,シナプス後α_1受容体を介した作用であると考えられた。 4.上頸神経節切除眼にノルエピネフリンを点眼すると,眼圧上昇と散瞳をきたす。前処置として塩酸ブナゾシンを点眼しておくと,眼圧上昇が認められなかった。一方,前処置としてサイモキサミンを点眼しておくと,散瞳が認められなかった。したがって,同じα_1受容体でも,眼圧作用と瞳孔作用は異なるサブタイプに属すると考えられた。 5.正常人に塩酸ブナゾシン(0.1%)を点眼したところ,眼圧は1〜10時間後まで有意に下降した。血圧はわずかに下降した。軽度の縮瞳と前房深度の増加が認められた。脈拍,屈折度には変化はなかった。房水流量には有意な変化はみられなかった。点眼により結膜の軽い充血を認めたが重篤な副作用はなかった。 これらの成果は交感神経α_1遮断剤に眼圧下降作用があることを示すとともに,塩酸ブナゾシンはこれまでにない眼圧下降機序をもつ新しい緑内障治療薬として臨床応用できる可能性が高いことを示している。
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