研究概要 |
近交系NFS/Nマウスの舌下腺腺房細胞に著明な粘液産生細胞への分化抑制の見られるミュ-タントを見いだし(Am.J.Pathol.132,1988:187-191)、唾液腺分泌制御機構の新たな視点からの解明を試みてきた。本年度は、レクチン組織化学を用いた免疫組織化学および電子顕微鏡的方法により胎生期から成熟期に至る経時的変化につき詳細な解析を加えた。胎生期舌下腺の電顕的観察より、胎生17.5日、18.5日のミュ-タントマウスでは未熟腺房細胞の胞体内には未発達なr-ERが目立つのみで明かな分泌顆粒の形成は生後3日目で初めて見られたのに対し、コントロ-ル(+/+)マウスに於いては胎生18日から腺房構成細胞内には豊富なゴルジ装置、よく発達したr-ERが認められ、胎生19日に既に粘液性分泌顆粒の形成がみられた。免疫ペルオキシダ-ゼ法によるレクチン組織化学的観察(DBA,PNA,SBA,UEA-1,WBA)により、検索した5種類のレクチンのうちPNAでのみコントロ-ルとの間に顕著な免疫反応性の差異が認められた。即ち、ミュ-タントマウスでは生下時より生後8週まで舌下腺腺房細胞にはPNA反応陽性細胞が散在性に認められたのに対し、生後12週以降およびコントロ-ルマウスにおいてPNA陽性腺房細胞の存在は認められなかった。また、他の近交系マウス(C3H/He,BDFI)舌下腺においてもPNA陽性腺房細胞はみられなかった。ピ-ナツレクチンPNAは糖鎖末端のbeta-galactoseに親和性を示すことが知られており、正常舌下腺腺房細胞には出現しないPNAがミュ-タントマウスに認められたことから糖鎖構造の異常が本ミュ-タントマウスにおける腺房細胞の分化異常に重要な関連性をもつことが強く示唆された。
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