研究概要 |
褐色細胞腫細胞を用い,細胞に対するATPの作用と,この細胞への神経成長因子(NGF)の作用に対する影響について検討し以下の結果を得た.(1)ATPはPC12hの増殖を阻害した.この増殖阻害効果はNGFの存在に関わりなく観察された.(2)ATPはNGFによる神経突起伸長を促進した.これは突起形成の頻度の増加というより突起長を増加させる効果である.AMPでも似た効果が観察されたが,ATP,次いでADPの方が強い効果があった.(3)PC12細胞の核内蛋白質,SMP,はNGFによってリン酸化促進が起きるが,ATPもリン酸化を促進した.この効果は低濃度ではATPに特異的であるが,高濃度ではAMP,ADOでも観察された.(4)ATPは細胞内Ca^<2+>を一過的に上昇させた.このCa^<2+>の約60%はinfluxによるものであり,他は細胞内貯蔵部位からのmobilizationによるものである.(5)ATPはPC12h細胞からのカテコ-ルアミン(CA)放出を起こさせた.CA放出の90%以上は外液からのCa^<2+> infl/xに依存しているが,EGTA存在下でKC1ではCA放出が起きない条件下でも,ATPによる放出がわずかに(〜10%)観察された.ATPのPC12に対する作用は早い応答ではP_2 purinergic receptorを介したCa^<2+>のinfluxとmobilizationによる細胞内Ca^<2+>上昇に依存しているが,遅い応答では,Ca^<2+>経路と,ATPに由来するAMP,ADOによって刺激されるサイクリックAMP経路の効果が複雑に組合わさって現われてくるので純粋にATPだけの効果を観察するのはほとんど不可能である.しかし,ATPは生体内においてもAMP,ADOを生成し,共同して細胞の機能を調節すると考えられるので全体をATPの作用としてとらえた.
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