研究概要 |
象牙質う蝕の進行には,細菌性因子とともに,象牙細管内のさまざまな有機,無機成分の関与が考えられている.我々はこれまでに,象牙質う蝕の進行程度が歯髄の生死にともなって大きく異なることや,その原因が象牙細管に存在する種々の成分,すなわち象牙芽細胞突起の変性,収縮度や,dentinal fluidの中の免疫成分の有無にあることなどを明らかにしてきた.しかし,細管内にみとめられる免疫成分の由来や,これと結晶成分との関係についてはまだ不明な点が多い.そこで本研究ではこうした点を明らかにするために,平成元年度より3年間にわたり,ヒトのう蝕歯を用いて,象牙質う蝕の進行と防御のメカニズムを明らかにすることに努めた.研究はほぼ順調に進展し,当初予定していた実験はすべて終了した.結果を要約すると,生活菌においては,う窩の表層部以外に,う蝕象牙質内の主として細菌が侵入した部位の歯髄側細管内にもlgGなどの免疫グロブリンの局在がみとめられた.しかしこのとき歯髄の炎症は軽度で,形質細胞はほとんどみられなかった.一方,失活歯では,表層部には生活菌と同様に免疫グロブリンが観察されたが,歯髓側の細管内ではいずれの免疫グロブリンもみとめられなかった.なお分泌型lgAの構成成分であるSecretary Componentは歯髄の生死に関係なく,う窩の表層部にだけ観察された.したがって象牙質う蝕の初期に歯髄側細管内にみられる免疫グロブリンは,歯髄を経た血清由来のものが大半を占めていることが示唆された.そして,う蝕が進み歯髄の炎症が拡大すると,これに細胞が産生する免疫グロブリンが加わって,細管内を侵入してくる細菌群に対抗するようになるものと考えられた.なおBrownーBrenn染色とヌ-ブ硬さの測定結果から,象牙質う蝕においては脱灰,軟化が細菌の侵入より先行することが再確認された.SEM観察結果によると,う蝕象牙質の象牙細管内における成分の出現頻度はきわめて低かった.したがって本成分と免疫グロブリンの局在性との間には,直接の関連はないものと考えられる.
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