研究概要 |
289症例に顎裂への新鮮自家腸骨海綿骨細片を移植した.骨移植年齢の平均は,11歳11カ月(最年少7歳4カ月,最年長33歳0カ月)であった. 骨移植後1年半を経過した症例を対象とし,臨床所見およびX線所見によって,短期および長期予後に関する分析を行った.その結果は以下の通りであった. 1.低年齢で骨移植を行った方が,骨架橋形成率は高かった.また,顎裂相当部の歯槽骨縁の高さが正常なもの,あるいは歯肉の形態に異常を認めないものも多かった.さらに,矯正治療のみで咬合を形成した症例の頻度が高かった一方,顎裂隣在歯の歯根吸収の発現頻度は低かった. 2.骨移植部の歯槽提の形態が良好なもののほとんどが,矯正治療のみで咬合を形成した例であった. 3.低年齢で骨移植を行った症例について,上顎骨の成長変化を観察した結果,骨移値が上顎骨の成長を抑制する可能性は否定できなかった.しかし,骨移植を行うことで,咬合管理を単純化することができる. 4.両側口唇口蓋裂では,骨架橋形成の良好でなかった顎裂が,4つの裂型の中で最も多く,しかも顎裂隣在歯の歯根吸収の発現頻度も高かった.これは,移植骨量が十分でなかったことによると考える. 以上のことから,顎裂への新鮮自家腸骨海綿骨細片移植に最適な時期は,腸骨の成長を障害しない程度に低い年齢であると結論する.ただし例外があり,顎裂幅が広い症例,あるいは両例に裂がある症例の場合には,骨移植年齢は,少し高い方がよい.その理由は,腸骨から多量の海綿骨細片を採取する必要があるからである.それが可能となるくらいに腸骨が成長するのを持って,骨移植を行った方が予後が良いと言える.
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