研究概要 |
分子内に3員環や4員環を有する高ひずみ化合物の熱力学的な安定性やそのひずみに起因した特異的な反応性に関する研究はかなり行なわれているが,この性質を有機合成に利用する研究は比較的少ない。その高いひずみエネルギ-の解消が推進力となってより安定な環などへ原子価異性化または転位する性質を有機合成,特に医薬品開発の基礎となる複素環化合物の合成法は利用すべく研究を進め,次の成果を挙げさらに発展中である。 1、高ひずみ化合物の環拡大反応を利用する新規中員複素環の合成 窒素,酸素,硫黄,リンなどのヘテロ原子を含むビシクロヘプタンやトリシクロヘプタン骨格を分子内に有する種々の化合物を入手容易な原料から合成し,これらの熱異性化によりジアゼピン,オキシアゼピン,チアゼピン,ベンゾアゼピン,ベンゾチエピン,ベンゾオキセピンなど種々の7員複素環合成に利用し得ることを明らかにした。また同様に,種々のヘスロ原子を含むトリシクロオクタン類からジオキンシン,ジアゾシン類などの新規を員複素環の合成にも成功している。 2.高ひずみ化合物の転位反応を利用する縮合複素環の合成 前項の化合物に対して,ヘテロ原子の位置や反応条件を選ぶことにより転位反応を優先的に起こすことが可能であり,またアジンイリド類の1,3ー双極子付加物なども熱転位を起こすことを見出し,これらを利用してピリドオキセピン,ピリドアゼピン類その他の種々の2または3環性縮合複素環の合成に成功し,さらに応用範囲の拡大を検討中である。 3.高ひずみ中間体を経由する反応を利用する合成 反応過程で不安定は高ひずみ中間体を生じる場合も,これらの異性化や転位を利用する環変換が可能であり,例えば,アリルアジド類の反応で生じるアジリン中間体から種々のアゼピン誘導体が合成できている。
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