研究概要 |
赤血球の老化による溶血の契機は,赤血球中でヘモグロビン(Hb)が酸化的変性を受け,いわゆるHbの沈殿物,ハインツ体が生成することにあると考えられている.本研究では,Hbの酸化的変性がどのようにして起こるかという研究を行なった.フェニルヒドラジン(PH)は,強い溶血毒の1つでHbの酸化的変性を起こし,ハインツ体を生成する薬物の1つであることがよく知られている.そこで,PHとHbを試験管内で反応しHbの酸化を通して赤血球の老化を考察した. PHは酸素Hbの酸素と反応しス-パオキシド,酸素ラジカル,水酸基アニオンの活性酸素を生成しこの酸素によりHbが酸化されると考えられている.酸化部位として鉄イオンとHbタンパク(グロビン)があると報告されているが,プロトポルフィリン(PP)環の酸化については知られていない. PHを酸素Hbと反応させた.Hbは沈殿しこの量は反応時間とともに増えた.反応後Hbを除き,酸性後有機溶媒で抽出しPPの酸化物質を検索した.種々の褐色物質が存在したが,PP環の酸化開裂物質の1つであるモノピロ-ル,ヘマチン酸が生成していることが判った.この量は,ジアゾメタンでメチルエステルに誘導しガスクロマトグラフィ-で定量することができた.反応時間と共にヘマチン酸の生成が増加していることから反応時間と共にPP環の分解も進んでいることが判った. 以上の結果,PHは鉄イオンとグロビン以外にPP環をも酸化し分解さすことが明かになった.Hbは4量体として安定化しているが,グロビンとヘム(PPと鉄イオン)とが非共有結合することによっても安定化している.PP環が分解し消失したHbは,もはや安定に溶液として存在できず変性しそこで沈殿しハインツ体をつくるものと思われる. 正常な赤血球中で,酸素ヘモグロビンからPHの作用と同じ活性酸素が発生することが知られている.経時的に赤血球のHbに対する酸化防御機構が減衰すると,HbのPPも酸化開裂しHbも不安定化することが考察され,今後赤血球の老化機構を考察するとき以上のことが新しい機構として取り上げられることが期待できる.
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