研究概要 |
内因性オピオイドペプチドの多岐にわたる生理・薬理作用の中,特に学習・記憶過程における調節因子としての意義解明を目的に,マウスを用いてのstepーdownあるいはstepーthrough型一試行的受動的回避学習テストを中心に検討し,以下の新知見を得た。1.モルヒネが学習試行前の投与によっては学習の獲得を阻害するが,一方,テスト試行前の投与によっては記憶想起を促進する。2.モルヒネの想起促進効果は,スコポラミン,シクロヘキシミドなど薬物誘発健忘のみならず,電撃誘発痙攣に対してもみられ,モルヒネの直接作用によるもので,state dependentな作用でない。(以上の成績はPsychopharmacology,100(1),1990およびJapan.J.Pharmacol.,54(1),1990に発表)3.このモルヒネの示す阻害,促進の相反する作用は,ともにナロキソンによって拮抗されるオピオイドμー受容体を介するものである。(Psychopharmacology,102(1),1990に発表)4.モルヒネによる想起促進効果は,低酸素あるいは脳虚血誘発健忘のほか,記憶の形成に重要な役割を演じている脳内アルギニンバソプレシン(AVP)の活性を抑制する抗AVP抗血清の脳室内投与によって誘発される健忘に対してもみられる非特異的作用である(論文作製中)。オピオイドの代表であるモルヒネについての以上の実験成績および先人による内因性オピオイドペプチドを用いての報告から,中枢高次機能としての学習・記憶の過程が,オピオイドによって調節されていることを明らかにした。また,モルヒネ反復投与によって耐性の形成される過程が学習・記憶の形成過程に類似し,事実,抗AVP抗血清の脳室内投与によってモルヒネ耐性の形成が阻害されることを証明しており,今後オピオイドの作用を脳内AVPとの相互関係の面から検討する。
|