研究概要 |
頭部は熱産生量も,熱放散量も多い。暑熱寒冷環境において防暑防寒のために帽子着用が奨励されている。しかし,深部体温を測定し,その生理学的意義について調べた報告はほとんど見あたらない。そこで,帽子の温熱生理的意義を明らかにする目的で,着帽時と無帽時について,被服生理学の立場から検討を加えた。 1)半袖・ショ-トパンツ着用した7人の成人女子について,着帽時と無帽時について,暑熱放射熱存在下で,鼓膜温・直腸温・皮膚温・局所発汗量・衣服内ならびに帽子内気候を測定した。無帽の状態で,環境温度28℃,相対温度60%の人工気候室内で椅座安静を保ち,直腸温・鼓膜温の値が安定したことを確認し,環境温を約15分かけて35℃に上昇させると同時に400Wの人工ランプを2個用いて後方より照射し,60分間の暑熱暴露を行った。環境温上昇ランプ点灯開始時から帽子を着用した場合には無帽時に比較して,鼓膜温のレベルとその上昇度が有意に低く保たれ,発汗開始が遅れ発汗量も少なく衣服内湿度が低く保たれた。 2)寒冷環境に於ける帽子の保温効果を明らかにする目的で,被験者7人に付いて調べた結果,10℃の寒冷暴露105分間の帽子表面温は無帽の頭表面温よりも低くなり,保温効果のために頭部からの放射・伝導・対流並びに蒸発による熱放散が抑制されたことが推測された。着帽時の頭部表面温,前額部皮膚温は無帽時よりも高く保たれた。有風時には着帽時の保温効果が著明に認められた。耳部は着帽時にも無帽時同様露出されていたにも関わらず,着帽時の方が無帽時よりも鼓膜温が高くなった。顔面,頭部表面からの冷たい静脈血動脈血間で対向流熱交換が行われたことが示唆された。温熱快適感,精神作業能率も着帽時によい成績を得た。
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