本研究の目的は以下の3点であった(文は申請書所載)。 (1)蹴鞠文献の調査と収集。(2)蹴鞠道家の成立過程の考察。(3)蹴鞠技法および故実の創出過程の考察。 〔研究実績〕 (1)について、全国的に文献所蔵館を調査し、約200点の蹴鞠文献を披見したが、そのうち、9ケ所で本課題にとって最も重要である初期、中期即ち平安時代末から室町時代前期までの間に成立したと考えられる文献60数点を複写により収集した。文献収集対象館が9つにとどまったのは、天理大学付属図書館において、旧蹴鞠道家飛鳥井家の蔵書であった約250点の良質の未公開文献が所蔵されているのを発見し、11月以降、専ら該館の調査と必要文献の収集に集中したためである。 (2)について。蹴鞠道家の成立過程については今回集中的に収集した初期の蹴鞠道秘伝書、鞠会記録類から見て、後鳥羽院時代即ち13世紀初頃に、これが求められるが、難波、飛鳥井、御子左の三道家が13世紀を通じて、内裏、仙洞、幕府等の鞠会に積極的にかかわってゆくことによって、これがさらに強化されていったと思われる。 (3)について。上記三道家の代表的な蹴鞠故実書は一巻書(難)、内外三時抄(飛)、遊庭秘抄(御)であり、これらによって蹴鞠故実の体裁が整えられたと思われる。これらがより所としている技法、故実は白河院政時代の蹴鞠の様式であって、今回収集した文献中最も成立が古いと思われる跳鞠口伝集(12世紀中頃)にこれらの故実、技法が多く記述されている。
|