切断された染色体末端の安定化の条件の一つとして、テロメア配列の結合による治癒修復があげられる。この治癒修復にはテロメアDNA配列合成酵素であるテロメラ-ゼが関与する可能性が高い。本研究は染色体切断末端へのテロメア配列の付加反応において、基質となる切断末端のDNA塩基配列に特異性があるかどうかを明らかにすることを目的とした。先に我々は分裂酵母において、ガンマ線によって誘発される染色体切断を利用して、約1100キロ塩基対(Kb)の極小ミニ染色体(ch10)を分離したが、種々の証拠からその末端は分裂酵母第3染色体動原体の反復DNA領域内におることが示唆された。そこで、パルスフィ-ルド電気泳動法で分離したch10DNAを抽出し、いくつかの制限酵素で消化後、テロメアDNAをプロ-ブとするサザン法で末端から最も近い位置にある各制限酵素の切断位置を決定した。このようにして作成したch10DNAの末端付近の制限酵素地図を、すでに塩基配列も決定されている動原体反復配列dg-dhの制限酵素地図と比較したところ、左端はdgの内部、右端はおそらくdg-dhの境界付近にあることが判明した。しかし、切断位置近傍にテロメア反復配列に類似した塩基配列などの特徴的な配列は見い出されず、左右両端間にも顕著な相同配列は認められなかった。本研究では又、これとは別に、直線状DNAによる形質転換を用いて環状ミニ染色体を作成する方法を開発し、第3染色体動原体を含む約100Kbの環状染色体を分離した。これは上述のch10とほぼ同じ分子量のDNAからなるが、有糸分裂においては数十倍も不安定であった。このことを利用すると、環状染色体の直線化にともなう安定化と、その末端配列の共通性をより正確に検討できる系となると思われる。又、染色体の安定保持におけるテロメアの機能を、動原体機能と分けて解析できる系でもある。
|