研究概要 |
ダイオキシンの免疫系障害作用を明らかにする目的で、2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)を成熟マウスに1回腹腔内投与し、胸腺・脾臓のリンパ球サブポピュレ-ション、生体の免疫機能に及ぼす影響を検討した。(1)TCDD1回投与によりマウスの胸腺は急速に用量依存性の萎縮を示し、投与7日後に胸腺重量は最下点に達した後回復に移るが、ほぼ完全な回復には投与後35日を要することが分かった。胸腺重量の減少は主に皮質リンパ球の脱落に基づくもので、胸腺組織標本の画像解析によって皮質面積の狭小化、髄質面積の相対的拡大が認められた。(2)TCDD投与マウスの胸腺・脾臓のリンパ球各サブセットについてフロ-サイトメトリ-解析を行った結果、TCDDは胸腺皮質に分布する未熟なPNA^+,L3T4^+Ly-2^+リンパ球を主に障害し、L3T4^-Ly-2^+リンパ球はTCDDに比較的抵抗性であることを明らかにした。脾臓では重量・各リンパ球サブセットに目立った変化はみられなかった。(3)TCDDの免疫機能に及ぼす影響を、細胞性免疫機能と液性免疫機能の両面から検討した。TCDD1回投与マウスでは、ヒツジ赤血球(SRBC)に対する遅廷型足蹠反応は抑制されないが、脾臓のSRBCに対するIgM-プラ-ク形成細胞(PFC)数は著明に減少したことから、TCDD1回投与は成熟マウスの細胞性免疫機能には影響を及ぼさないが、液性免疫を強く障害することが分かった。さらに、in vitro抗体産生細胞誘導系を用いてT,B細胞レベルでの解析を行い、TCDDはLy-1T細胞(おそらくヘルパ-T細胞)を障害せず、B細胞に作用してPFC産生を抑制するという結果が得られた。
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