研究概要 |
本研究の目的は、経済発展における文化的基礎の重要性を明らかにするため、非西欧諸国中,近年急速な経済成長をとげた日本およびNIES諸国のうち、本年度は日韓両国をとり上げ、そこにみられる儒教と集団主義に焦点を当てて研究することであった。この課題は、1、2年で結論の出せるものではなく、今後、日韓に中国を含めて、研究を継続してゆく予定である。 本年度の研究を通して明らかになったことの一端を記せば、以下の通りである。日韓両国は、歴史的・文化的に多くの共通性をもつ半面、相違点もまた大きい。共通性としては、第1に、その定義はさておき、西欧近代の個人主義に対して、集団主義が文化的基盤、したがって経済発展の基盤となっている。第2に、その集団主義は、両国共古来からの祖先崇拝を中核としており、それがイエ制度を存続させ、財閥や企業グル-プ形成に大きな役割を果してきた。第3に、インド,中国を経由して導入された仏教、儒教、道教がこのイエ制度と結び付き、それを補強してきた。近代資本主義のエトスにこれらの影響がうかがわれる。相違点としては、第1に、日本では、仏教と儒教の役割が大きかったのに対し、韓国では、14世紀末の「排仏崇儒」政策以降、仏教が統治者はもとより一般民衆に及ぼした感化は小さかった。これは経済行動の心理的基盤の差として注目される。第2に、儒教の受容の仕方についての相違が指摘できる。少なくとも17世紀以降、統治者の徳目として「修身斉家」の観念に基づく徳治主義が理想とされ、被統治者の徳目として「忠孝」がもっとも重視されたことは、両国とも同様である。ただ、日本では孝より忠が重んぜられたのに対し、韓国ではその逆であった。このことは、企業経営の上にも現われ、日本では企業忠誠心が生じたが、韓国にはこうした観念は生ぜす、これが経済発展にも相違をもたらした。
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