研究概要 |
遺伝子重複における分子進化について、グロビン遺伝子を対象に検討を加えた。1)重複遺伝子の不活化の機構を明らかにするために、また変異の起源と広がりを推測するためにアジア(タイ、マレ-シア、台湾、そして日本)におけるβサラセミアの解析を行なった。台湾では3種類の変異が見いだされた。タイでは北部(Khon Kaen)、中部(Bangkok)そして南部(Songkla)の3つの地域から試料を集め解析を行なったところ合計9種の変異が見いだされた。Chinese type,Indian type,Thai typeに分類でき中国に近い北部ではChinese typeが、南部ではIndian typeが多く見られた。マレ-シアにおいては11種類の変異が見いだされ、マレ-人特有の変異の他にChinese及びIndian両typeが見られた。さらに黒人で報告されている3'RNA切断シグナルの変異が検出された。日本人のサラセミアにおいては日本人特有の変異が7種類、Chinese typeの変異が2種類見られた。特に第3エクソン内の3種類の変異が特長であり、これらは東南アジアのサラセミアでは見られない。この変異はヘテロ接合体でも高度な溶血性貧血を来たすためマラリア感染に対する利点がなく、そのためマラリアが頻発する地域では見られない可能性が考えられた。また地中海沿岸地域で報告された変異も見いだされた。変異と多型との関連を検討したところ人種間における同一変異の多発や、染色体間の交叉や遺伝子変換による変異の他の染色体への移行が推測された。2)脊椎動物におけるグロビン遺伝子重複の初期像を推測するうえで重要と考えられるシ-ラカンスのグロビン遺伝子について、既に明らかにしたコイのαグロビン遺伝子の配列を参考にしてプライマ-を作成し、PCR法でクロ-ン化を試みたが、まだ成功していない。
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