研究概要 |
植物エンレイソウ(延齢草Trillium)は日本とアメリカに介布し、両地域で異なる種分化過程を歩んでいる。その進化機構の分子遺伝学的追求で、本年度次のような成果が得られた。 1)日本のエンレイソウ属植物の起源はアメリカ東部に分布するTrilium erectumであることが、染色体変異の核型分析だけでなく、エステラ-酵素の電気泳動バンド・パタ-ンによる分子レベルの追究によって証明された。〈発表論文〉1.FUKUDA'sEvolutionary relationships between the Asian and North American Trillium species.March 1990. 2)その日本およびアメリカのエンレイソウを結ぶ進化の絆は、アメリカ東部とアラスカを移動しているFlicker,Flycatcher,Warbler,Orioleなどの鳥類,カムチヤッカと日本を結んで移動しているキツツキ、カッコウ、ツグミなどの鳥類による種子の伝播が大きく関与していると考えられる〈発表論文〉1.FUKUDA's Chromosome differentiation among North American and Japanese Trilium species.February 1990. 3)日本で新しく発見された配偶子不分離によるエンレイソウの雑種形成は、染色体による分析だけでなく分子レベルにおけるアロザイム分析からも両親の種を明確に指摘することができ、新しい種形成のタイプとして注目される〈現在論文作成中〉。 4)これらの植物の進化機構を総合してみると、分子レベルでは、木村の中立説が基礎になって働き、染色体レベルの初期から、ダ-ウインの選択説に転化すると考察される。 今後、こうした進化機構の解明を、エンレイソウという植物を研究材料として、分子レベル、染色体レベル、さらには形質一外部形態からの追求を続けていきたい。
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