研究概要 |
藍色細菌や緑藻をはじめ一般に高等植物の光化学系I(PS I)複合体は、チラコイド膜に存在する膜タンパク質複合体であり、数種のサブユニットから構成されている。このPS I複合体には一連の酸化還元反応を担う電子伝達成分(A_0,A_1センタ-X,A,B)が存在し、吸収した光量子エネルギ-から最終的に高い還元力を生み出している。我々はこれまでPS I複合体を構成する低分子量サブユニットに着目し、それらの構造と機能の解析、及び局在状態についての考察を行ってきた。そして9-kDaポリペプチド(サブユニットVII;psaC遺伝子産物)がセンタ-A,Bを配位するFe-Sタンパク質であり、一旦複合体より解離させると酸素に対し非常に不安定となることを明らかにしてきた。本年度は、今までその単離・精製が困難であった9-kDaポリペプチドを完全にnativeな状態で解離することに成功し、そのFe-Sクラスタ-の特性について調べた。9-kDaポリペプチドはMalkinらの方法を改良し、ホウレンソウ葉緑体より調製した。特に凍結乾燥チラコイド膜をメタノ-ル・アセトンで処理した後はすべて嫌気的条件で行い、タンパク質の抽出やカラムクロマトグラフィは嫌気グロ-ブボックス内(室温)で操作することにした。単離標品は2[4Fe-4S]型バクテリア型フェレドキシンとよく似た吸収スペクトルとEPRシグナルを示した。事実、一次構造から予測された通りFe及びS含量はそれぞれ8.5と8.0原子/モルであり、2[4Fe-4S]型クラスタ-を持つFe-Sタンパク質であると判断できる。また本タンパク質に存在する2個のFe-Sクラスタ-が区別できるかどうかを調べるために、酸化還元滴定の実験を行った。その結果、性質の違う2種のクラスタ-が存在し、酸化還元電位はそれぞれ-460mVと-570mV付近にあるとの知見を得ることができた。
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