研究概要 |
1,4-ジエチニネベンゼンは最も簡単な分子構造を持つ結晶性アセチレン化合物と考えられる。その単結晶をγ線照射することにより共役ポリエンを主鎖とする重合体が生成する。エチニル基の水素をアセトキシメチル基に置き換え、芳香核にメチル基やメトキシ基を置換基として持つ種々の結晶性のジエチニルベンゼン誘導体を合成した。これらの単量体の固相放射線重合における反応性は芳香核の置換基の種類や位置により著しく異った。X線結晶構造解析により重合反応性と結晶構造との相関関係が明らかになった。特に重合反応性の高かった単量体は1,2-ジメチル-4,5-ビス(3-アセトキシ-1-プロピニル)ベンゼンおよび1-メチル-3-メトキシ-4,6-ビス(3-アセトキシ-1-プロピニル)ベンゼンである。前者では、二つの三重結合が非等価な配置にあり、片方の三重結合のみが付加重合に適した配置を取っている。後者は、このような二つの三重結合の非等価な配置を期待して合成された非対称な分子構造を持つ単量体である。この単量体では、重合初期過程において選択的に二量体が連鎖反応で生成し、重合体は二量体からの二次的な生成物である。二量体を同定し、結晶構造との比較を行った。ジエチニルベンゼン誘導体については固相重合に適した半量体の分子設計が可能となった。被照射試料のESRスペクトルの測定により、結晶中に蓄積される初期ラジカルの量と重合収率との間に良い対応が見られた。重合反応性の高い結晶からは微量の生長ラジカルのみが検出された。ジエチニルベンゼン誘導体から生成する重合体はペンダントに片方の三重結合が残存している。この重合体の膜状態および溶液における光ゲル化を試みた。以上のように、ジエチニルベンゼン誘導体の分子構造と固相重合に適した結晶構造の関係について知見を得て、結晶場を利用した機能性高分子の合成を試みた。
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