研究概要 |
軸索内輸送を用いた昨年度までの研究により,軸索細胞骨格には構造維持に重要な安定重合型と重合-脱重合平衡にあるダイナミック型という二種の重合状態が区別されること,細胞骨格自体の輸送はダイナミツク型を介して行なわれることの二点が明らかとなった。この新しい知見をもとに,今年度は,細胞骨格の大幅な再編成を伴うと考えられる神経再生過程わ解析し,神経回路の安定性と可塑性のバランスを調節する上で細胞骨格の果たす役割を検討した。実験系としてラット坐骨神経運動繊維を用い,細胞体の存在する脊髄前角部にL-[^<35>S]メチオニンを注入して細胞骨格蛋白を標識するとともに,標識1-2週間前あるいは1週間後に坐骨神経を大腿中央部で露出して凍結障害を加えることにより,再生過程における細胞骨格輸送の変化を調べ,以下の結果を得た。 1.正常神経では,遅い軸索内輸送は,安定重合型の大部分を含む成分I(1.5mm/日)と,ダイナミック型を主体とする成分II(3mm/日)の二つの速度成分から成る。標識1-2週間前に傷害を加えた再生神経では成分IIが4.5mm/日と大幅に加速する。成分Iの主ピ-クの速度は変化しない。軸索損傷の2-4日後には細胞体における細胞骨格蛋白合成の量的,質的変化が顕著になることから,成分IIの選択的加速は損傷後に合成される細胞骨格の構成変化を反映したものと考えられる。 2.軸索内の既存細胞骨格の再生に伴う変化を調べるために,標識1週間後に傷害を加えた場合にも,成分IIの加速は明らかである。これは,軸索内で安定重合型-ダイナミック型の変換による局所的再編成が起こることを示しており,再生の初期過程に対応すると考えられる。 3.以上のように成分IIは,細胞骨格の調節に直接関与する分子を含むことが期待される。その主要構成分を分析した結果,68k heat shock関連蛋白およびリポコルチン様蛋白の存在を確認した。
|