研究概要 |
ショウジョウバエの口器味細胞の糖応答感度を支配する遺伝子としてわれわれが見出したTreは唾腺X染色体5B-C領域に存在する優性の遺伝子で、動物の味覚受容機構に関与する遺伝子として生理学的に同定された現在唯一のものである。この対立遺伝子には2型があり、口器唇弁感覚毛にある甘味特異的応答性を示す単一受容細胞が2糖類trehaloseに対して顕著に感度が変化することをすでに報告している。唾腺5B-C領域を含む染色体部分異数性により重複や欠失をもつ成虫の、この糖に対する味感度を行動学的に摂取域濃度で調べると、両対立遺伝子共にその遺伝子量の変化に応じてこの糖に対する味感度が変化するが、一方味細胞の他の糖類に対する応答感度は、この遺伝子の変異により大きな影響を受けない。したがってわれわれはこの遺伝子が味神経の活動電位発生、伝導部位などではなくて、味覚の受容体分子自身あるいは信号伝達に関与する分子をコ-ドする構造遺伝子である可能性が高いと考えている。したがって、この遺伝子を同定し、解析することは動物味覚の分子機構を知るうえで重要なてがかりになるものと思われる。Tre遺伝子のクロ-ニングにはP因子挿入突然変異を分離することが有効であるので、Tre感度の高い対立遺伝子をもつM系統にP系統を交配して、Tre遺伝子へのP因子挿入により期待されるtrehalose感度の低下した個体を行動的にスクリ-ンした。これまで約12,000本のX染色体をスクリ-ンし、伴性の低trehalose感度を示す14系統を確立した。唾腺標本でラベルされたP因子プロ-ブをもちいて5B-Cへの挿入が確認されれば、次年度でクロ-ニングへもってゆきたい。
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