研究概要 |
〔1〕昨年度までに,極細胞形成に働く細胞質因子の一つがミトコンドリアのlarge ribosomal RNA(MtlrRNA)である事を示唆する結果を得ていたが、本年度はこのことをさらに完全に支持する直接証拠を得るために,すでにクロ-ニングに成功していたcDNA(pDE20.6)を用いてプライマ-伸長法により新たなcDNAを合成し、その中から、1.4kbの長さのものをクロ-ニングした。このcDNAの塩基配列を決定し、デ-タベ-スを検索したところ、D.yakubaのMtlrRNAと95%の相同性を示し、D.malanogasterのものとは、デ-タベ-スに登録されている部分に関して1塩基しか異なっていなかった。このcDNAをpGEM-3ペクタ-に再クロ-ンし,sp6.T7,プロモ-タ-を使ってそれぞれセンスRNAとアンチセンスRNAを合成した。これらのRNAを紫外線照射卵に微小注射したところ、センスRNAのみに極細胞形成能が認められた。アンチセンスRANを正常胚に注射したが,極細胞形成は阻害されなかったが,センスRNAの注射による明かな極細胞誘導の結果は,MtlrRNAが紫外線によって失われた極細胞形成能の回復において基本的働きをしている事を示す直接証拠である。さらに、胚の磨砕液の各遠心分画よりRNAを抽出してノ-ザンブロット解析を行ったところ,ミトコンドリア遠心沈殿後の上清にMtlrRNAが存在する事が明かとなった。他のミトコンドリア遺伝子のmRNAはこの上清から検出できないので,これはア-テファクトではない。このことは,正常発生の一時期にMtlrRNAがミトコンドリアより外部に搬出される時期がある事を強く示唆しており,紫外線照射卵のみでなく正常発生過程においてもMtlrRNAが極細胞形成に働いている可能性を支持している。 〔2〕卵形成中に生殖細胞で合成され,胚に移行後は体細胞系列にのみ分配され,胚発生終了とともに消失する抗原のアミノ酸配列の一部を決定する事に成功し,次年度はこの遺伝子のクロ-ニングを行う。
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