研究概要 |
本年度の研究は甲状腺におけるGタンパク質依存性膜情報伝達機構の内,特にリン脂質代謝-Ca系の詳細を知ることを目的とし,既に明らかにしたIAP感受性Gタンパク質の多様な役割についてもさらに追求した。 1.ノルエピネフリン(NE)およびTSHによるリン脂質代謝-Ca系の活性化とアデノシン(Ado)の許容効果:培養ラット甲状腺FRTL-5のリン脂質代謝-Ca系が培養条件により,NEまたはTSHで活性化されることは既に報告したが,このNEとTSHの効果は,それ自体は非Ca動員シグナルであるAdoの存在により著しく増大する。このAdoの“許容効果"にはIAP感受性Gタンパク質の関与が必要である。既に報告した,ある種のプリナ-ジックアゴニストのCa動員作用に対するAdoの効果もあわせて考えると,この許容効果は甲状腺細胞のAdo受容体-IAP感受性Gタンパク質を介し,リン脂質代謝-Ca系の伝達機構一般に及ぶと思われる。Adoは神経細胞から分泌される他,甲状腺細胞からも分泌されるので,ホルモンとAdoとの共同作用は甲状腺の神経支配,あるいはオ-トクリン制御に重要な意味を持つ筈である。 2.心房性利尿ペプチド(ANP)による甲状腺細胞の制御とGタンパク質の関与:ANPはFRTL-5内におけるcGMP濃度を著しく増大させる。その生理的役割は未確認であるが,チログロプリンの合成阻害が見られるという報告がある。興味あることは,このANPのcGMP合成促進作用がAdoで著しく阻害され,その阻害はIAP感受性であった。この結果は,IAP基質Gタンパク質が,その新しい役割として,グアニル酸シクラ-ゼの阻害へも関与している可能性を示すものと思われる。
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