研究概要 |
HIVが脳内に侵入して起きるエイズ痴呆症候群(エイズ脳炎)は、発症率が高く重大な問題となっているが、その発症メカニズムの実態は殆どわかっていない(木村、細胞工学、7,644,1988)。本年度はVIP及び脳内マクロファ-ジ、マイクログリアの点から研究を進めた。 Pert等は、マウス脳海馬細胞を用いて、VIPのニュ-ロン生存維持効果を、VIPとその一部にアミノ酸の相同性を示すgp120が阻害している可能性を指摘しているが(Nature,335:63 9,1988)、一部再現性に疑義がだされており、不明の点が多い。そこで、ラット胎仔脳培養細胞を用いて、VIP及びgp120と相同のアミノ酸配列であるペプタイドTがニュ-ロンに及ぼす影響を調べ、エイズ痴呆症候群発症との関連を検討した。海馬細胞では、VIPはニュ-ロンの生残率を上昇させたが、高濃度のペプチタイドTはニュ-ロンの生残率を低下させ、VIPのニュ-ロン生存維持効果を抑えた。海馬はエイズ痴呆症候群において病変が比較的みられる領域であり、海馬ニュ-ロン脱落が投射ニュ-ロンの二次的脱落を起こすことも考えられるので、HIVgp120がエイズ痴呆症候群の一因である可能性はある。一方大脳皮質細胞の培養では、VIP及びペプタイドTの添加によって、ニュ-ロンの生残率に影響は認められず、VIP及びペプタイドTの作用は、ニュ-ロンの種類によって異なる可能性が示唆された。 最近、脳内におけるHIVの主な標的細胞であるマクロファ-ジ、マイクログリアと、エイズ痴呆症候群発症との関係が注目されてきている。一方脳内におけるマクロファ-ジ、マイクログリアの研究は進んでおらず、細胞の同定、性質など不明の点が多い。そこで新生ラット脳細胞より、マクロファ-ジと共通抗原をもった脳内マクロファ-ジ、マイクログリアと考えられる細胞の分離、培養を行い、これらの細胞の性質を検討中である。
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