研究概要 |
cBN単結晶切削工具は現在実用の域に達しているわけではなく、今後の問題が山積している。cBN単結晶の育成に成功したのは著者らの5年前の報告で世界で最初である。ところが、cBN単結晶の高温・高圧合成はダイヤモンド単結晶の育成よりもはるかに困難である。しかも。結晶合成に必要な基礎的デ-タも非常にすくない。 本研究はcBN単結晶の合成に不可欠な基礎デ-タをまず蓄積することにした。ダイヤモンドとちがって、cBNは熱力学的安定条件以外で合成できていない。したがって、高温・高圧条件で合成するが、cBNが安定な圧力ー温度条件が確かではない。今回行った実験結果では、平衡線はP=T/200ー3.5(℃、GPa)と決定した。これは、従来と大きく違った結果で、cBNは高圧相ではなく、低温相である。 単結晶育成溶媒には種々考えられるが、アルカリ、アルカリ土類ほうちっ化物が代表的である。それゆえ、これら化合物とhBNを共存させた系からcBNが合成できる圧力・温度条件を実験的に求めることがまず必要である。Li、Ca,Mg,LiーCaほうちっ化物でcBNの合成領域をきめたところ、最低合成圧力は大部分5GPa,最低合成温度は1000ー1200℃であった。BNー溶媒系でcBNが合成される最低温度は液相線と一致するはずで、原理的にはこれが最低の結晶成長温度になる。ところが、アルカリほうちっ化物溶媒では1700℃以上でないと顕著な成長がみられない。そこで、5.5GPa、1200ー1300℃付近でダイヤモンドあるいはcBN結晶を種とした成長実験を行ったところ、核形成の制御をうまく行えば種結晶上に適当な厚さのcBNが成長する条件で確認できた。たとえば、Mg_3BN_3を約5wt%添加したhBNは、5.5GPa1500℃で容易にcBN焼結体に転換し、精密加工工具材料として有望なことが筆者らによってすでにみいだされている。このような特異な転換機構をさらにくわしくみるために、Mg3BN3の結晶構造解析、少量の水分を添加した場合の分解反応によるcBNの合成を行い、構造に含まれているN=B=N一次元結合が重要な役割をはたしていることをみいだした。
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