研究概要 |
1.研究目的:癌の患部を局部的に加温する温熱療法は、副作用の無い有力な癌の治療方法である。しかし、骨腫瘍のような深部の癌を局部的に加温するのに有効な方法は未だ開発されていない。本研究は、生体活性なガラス中に強磁性のフェライト粒子を析出させる方法により、生体内で骨と自然に結合し、しかも交流磁場下で発熱する材料、すなわち体内に埋入して骨腫瘍などの深部の癌だけを加温するのに適した結晶化ガラスを合成する条件を明らかにすることを目的とする。 2.研究成果:CaO・SiO_2組成のガラスは、生体活性を示す。しかし、この組成にFe_2O_3が少量添加されると,その生体活性が失われる。ただし,この組成にさらにB_2O_3やP_2O_5が少量添加されると、ガラスはFe_2O_3を含んでいても生体活性を示すようになる。Fe_2O_3ーCaO・SiO_2系においては、Fe_2O_3を40wt%迄含むガラスが得られる。この組成のガラスを加熱処理すると、CaOーSiO_2系のガラスとβーウォラストナイト(CaO・SiO_2)から成るマトリックス中にマグネタイト(Fe_3O_4)が析出した結晶化ガラスが得られる。この結晶化ガラスは、強磁性を示すが、生体活性は示さない。上記組成に少量のB_2O_3とP_2O_5を添加した組成のガラスを同様に加熱処理すると、同様の構造の結晶化ガラスが得られ,これは強磁性と生体活性を併せ示す。その飽和磁化は32emu/g,保持力は1200 Oeである。この結晶化ガラスの直径0.1〜1mmの顆粒状試料5gを、死んだ豚の大膸骨骨髄部に充填し、100kHz、最大磁場300 Oeの交流磁場の下に置くと,大膸骨外表面は磁場印加5分後には癌治療に有効な43℃迄加温され、磁場が印加される限りその温度が保たれる。兎の脛骨骨髄部に腫瘍を移植し,2週間後に上記結晶化ガラスの直径3mm,長さ5cmのピンを挿入し,上記交流磁場の下に50分間置くと,3週間後に骨髄内部の癌細胞が完全に死滅していることが確認される。
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