研究概要 |
位相力学系理論は、同相写像に対し、その変換を非常に多くの回数繰り返したときの各点の動く様子を記述することを目的とする。円周の同相については、このような性質はよく理解されているが、2次元以上の空間においては、各点の動く様子は「混沌」という状態が一般的であり、非常に難しい問題になっている。今回の研究では、「混沌」を理解するために、提案されているいろいろな性質や不変量の関係を明らかにすることを目指し研究した。 連続写像f : X→Xのイテレーションの族が同程度連続であるものは、非常に扱いやすい力学系である。混沌という状況は、その逆である。 複雑さを記述するためには有限開披覆βのfによるn回までの引き戻しの共通部分を取った被覆に対する部分被覆の最小位数c(β.n)を考えることが重要である。位相的列エントロビーh_A(f.β)はこれをさらに精密にし、自然数の増大列A={t(1),t(2),...}に対し、f^{-t(i)}(β),i=1,2,...の共通部分を取った被覆に対する部分被覆の最小位数の増大度の指数として定義される。この位相的列エントロピーを用い、「力学系が弱位相混合的であることと任意の有限開被覆βに対し、あるAを取るとh_A(f.β)はβの部分被覆の最小位数の対数となる」ことを示した。 グッドマンが、同程度連続系は全ての列Aに対し位相列エントロピーが零であることと、その逆は成立しないことを示していたが、李思敏氏は実際にはほとんどその逆が成立することを示した。すなわち「f : X→Xをコンパクト距離空間上の極小同相写像とする.どのような列に対しても,位相列エントロピーが零であるとすると,同程度連続系のほとんど1対1の拡張となる.」 さらに一般の群Tの作用に対し、その半共役と混沌の関係を研究した。X上のTの作用とY上のTの作用との間の半共役(全射)φ:X→Yに対し、φの相対的隣接関係PφをX×Xの対角集合の近傍αのT軌道Tαとφの逆像による同値関係Rφの共通部分Tα∩Rφの(αについての)共通部分とし、相対的領域的隣接関係Qφを共通部分Tα∩Rφの閉包の共通部分とする。「概周期点がRφの中で稠密であることとQφが同値関係になることが同値であること」を示した。
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