研究概要 |
【緒言】DNAのフェルミレベル近傍の電子状態に関する研究は、DNAの有する基礎物性(電気伝導性)を議論する上で重要であるにも関わらず、これまでは未開拓な研究領域であった。私は本研究背景をもとに、酸化シリコン表面上DNA分子膜(Poly(dG)・poly(dC):GC, Poly(dA)・poly(dT):AT)の電子状態評価を、光電子分光(PES)およびX線吸収分光(XAS)により行った。 【実験】上記DNA分子膜に、ヨウ素を用いた化学ドーピングによりキャリア(ホール)を積極的に注入し、無ドープ状態との比較を行った。これまでの研究報告から、ヨウ素ドープしたGC対の伝導度は、ドープ時間とともに飛躍的に上昇することが明らかとなっている(M. Taniguchi et al.,JJAP Express Letters, in press.)。全ての分光測定は、分子科学研究所・極端紫外光実験施設(UVSOR)・BL-4Bにて行った(〜10^<-9> Torr、室温)。 【結果と考察】無ドープおよびヨウ素ドープしたグアニン-シトシン(GC)およびアデニン-チミン(AT)塩基対の価電子帯光電子スペクトルを測定した結果、ヨウ素ドープした系では両塩基対ともに変化が見られたが、その挙動は全く逆となることが分かった。GC対のスペクトル(エッジ)は、フェルミレベル側に「染み出す」挙動を示し、AT対においてはその逆となった。特にGC対で見られた変化は、既にナノ伝導特性で報告されている、キャリアドープ(ホールドープ)による伝導度上昇との対応付けが可能であると考えられる。現在は本研究成果をもとに、伝導機構に関する考察を行っている最中である。 【備考】本研究は、理化学研究所および岡崎国立共同研究機構・分子科学研究所との共同により行われた。代表者は、試料作成の一部、および全般の分光測定・データ解析に携わった。
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