平成14年4月のラトビア共和国訪問においては、昨年と同様、現代ラトビア語共時研究の専門家らから助言を受け、中心的な研究テーマとしているアスペクト・時制・叙法の問題に関する雑誌論文、学位論文などの収集を引き続き行なうことができた。その中には、ロシア語よりもゲルマン系言語に近いラトビア語の時制体系の、英語との対照研究論文も含まれる。以前修士論文などで取り上げた、ラトビア語伝聞法をめぐる諸問題については、ドイツ語との対照研究を行なった博士論文を著者本人から入手することができたのは大きな成果であり、これらの資料を、今後のより広い視野からの継続的な研究に生かしたいと考える。 スラヴ語とバルト語の関係に関する、対照文法の視点からの考察においては、これらの言語が用いられている現場を観察することがぜひとも必要になってくるので、昨年に引き続き、現地で知人らの協力を得て、実際に話されている言語を仔細に観察することにより、ロシア語とラトビア語の対照研究にとって欠くことのできない「生きた言語」の姿の一端をとらえることができた。その成果のうち特に、ラトビアで話されるロシア語がラトビア語の影響を受けていると思われる点について簡潔にまとめたものを、NHKテレビ「ロシア語会話」8・9月号テキストに発表した。これは類型論的観点から見てもきわめて興味深く、かつ日本ではまったく知られていない諸現象を取り上げたものであり、ロシア語の個別言語研究にも資するところがあるものと信ずる。 今後は上記のテーマのほか、昨年から調査している動詞接頭辞の意味と機能についてさらに考察を深め、所属する東京大学スラヴ語スラヴ文学研究室の紀要だけでなく、ラトビアの言語学雑誌への論文寄稿を考えている。
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