研究概要 |
放射光X線の特性を利用して、生体内の特定物質分布を描出する蛍光X線CTシステムの実用化を目指し、ヒト頭部程度の大試料に適用するための最適撮像システムを開発している。その目標は、ヒト脳内に分布する数μg/mlの微量なヨウ素を臨床機能画像化装置PETで実現している空間分解能2mmよりも高い空間分解能で描出することである。 平成13年度に、シミュレーションおよび基礎実験によって、大量の散乱X線を低減できれば目標達成が可能であることを明らかとした。 本年度は、散乱X線低減手法として、フィルタ法とコリメータ法を検討し、コリメータを用いたポイントスキャン方式が有効であることが分かり、大試料のための最適撮像システム構成を提示することができた。さらに、画像理解のための大試料での画像統合表示の有用性も確認できた。 1.フィルタ法による散乱X線低減 最適なフィルタ用元素を実験的に選択した.すなわち,セシウムでフィルタを設計すると、検出効率を2.2倍改善することができた。しかし、フィルタ元素自身からの励起蛍光X線が大量に検出器に混入したため、検出器に入る蛍光X線光子の占有率はわずか1.56%であり、目標とする数μg/mlの微量濃度の検出は実現できなかった。 2.コリメータによる散乱X線低減とポイントスキャン方式撮像 細長いコリメータで散乱X線の混入を抑えて蛍光X線を検出しながら走査観測するポイントスキャン方式を検討した。試作撮像システムにおいて,空間分解能2mmで、脳ファントム内に分布する500μg/mlのヨウ素を描出することに成功した。さらに検出器開口縦幅を拡げ,複数検出器を利用することなどで、数μg/mlの目標濃度検出に近づけられることが分かった。なお、画像再構成の際の光路に沿った吸収補正の有効性も確認した。また、撮像時間は被射体の両側に検出素子を複数配列する構成によって約11分で撮像可能と見積もられ、この方式は推定被曝線量も従来のX線CTの1/50と実用的である。 3.機能情報と形態情報の統合 機能情報を充分に理解するには形態情報を加味した読影が不可欠である。ここに考えている大試料においても,形態画像として蛍光X線画像と同時に得られるコンプトン散乱X線によるCT画像を利用することが実際的であり、これによる画像統合の有用性を脳ファントム撮像例で実験的に示した。なお,このとき2で示した補正には両者のデータの融合が不可欠であった。
|