研究課題
特別研究員奨励費
本研究の目的のひとつは、アンモナイトの縫合線をフラクタルパターン形成の結果として捉え、現実に存在する縫合線パターンを説明することである。その際の大きな問題点は、本来統計的な意味での再現性しかないフラクタル図形と、縫合線形態の種内での安定性の関係をいかに説明するかということであり、そのためには個体変異の大きさを定量的に把握することが欠かせない。従来、ジュラ紀型アンモナイトにおいては個体変異が大きく、白亜紀型アンモナイトにおいては個体変異が小さいという報告はあるものの、定量的かつ系統的な研究は行われていない。そこで本年度は、縫合線形態の種内変異の測定系の確立を試みた。同種個体を多数収集できるという観点から、材料としては、北海道産アンモナイトDesmoceras latidorsatumを用いた。まず、縫合線形態をデジタル化する手法として、デジタルカメラによる直接撮影を試みたが、曲面上の図形を平面上に写す際に生じるゆがみの補正が、思いのほか困難であったため、結局、万能投影機を用いてスケッチし、それをデジタルスキャナで読み込む方法を採用することとした。個体変異の大きさを定義する量として、累積誤差と距離行列の2つの量を用いた。前者は、われわれが以前異常巻きアンモナイトの殻形態の変異を定義するのに用いたもので、2つの曲線の始点と終点が一致するように拡大縮小を行い、その結果できる2つの曲線の間の面積によって2つの曲線の相違を定量化するものである。後者はたんぱく質の立体構造の比較に用いられているもので、曲線上に等間隔に点を打つことによって得られる、2点間の距離を要素とする行列によって曲線を定量化し2つの行列を比較することでその相違を表現するものである。試行の結果、どちらの量によっても個体変異を定量的に表現できることが確かめられた。今後、本研究で確立された手法によって大規模に種内変異を測定し、種間での比較を行っていきたいと考えている。
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