研究概要 |
既にクローン化に成功しているラット中性セラミダーゼの細胞内局在規定シグナルの同定を行った。中性セラミダーゼをHEK293細胞に過剰発現させると、形質膜表層に存在するのみならず、細胞外に分泌された。形質膜上におけるトポロジーを解析した結果、本酵素は触媒部位を細胞外に向けたII型の膜貫通型糖タンパク質として存在することが判明した。本酵素はN末端の膜貫通領域の下流にO型糖鎖が密集して付加したセリン、スレオニン豊富な繰り返し構造(mucin box)を持つことが確認された。Mucin boxの欠損変異体は、形質膜表層に分布できず大部分は細胞外に分泌された。さらに、mucin boxに存在するO型糖鎖付加部位に変異を導入した酵素でも、同様に形質膜表層分布の減少と細胞外分泌の増大が確認された。また可溶性タンパク質である緑色蛍光タンパク質(GFP)に中性セラミダーゼのmucin boxと膜貫通領域を付加すると形質膜上に発現できるようになることを発見した。以上の結果は、mucin boxにおけるO型糖鎖付加が、タンパク質をII型の膜タンパク質として形質膜上に発現させるのに非常に重要であることを示している(J. Biol. Chem. In press)。興味深いことにmucin boxは脊椎動物の中性セラミダーゼにおいてのみ確認され、バクテリアやショウジョウバエなどの無脊椎動物では確認されなかった。緑膿菌及びショウジョウバエの中性セラミダーゼは、すべて細胞外に放出される分泌型タンパク質である(J. Biol. Chem., 273, 14368-14373, 1998 ; J. Biochem., 132, 229-236, 2002).おそらくmucin boxは中性セラミダーゼをII型の膜タンパク質として発現させるために進化の過程において獲得された構造であると考えられる。
|