研究概要 |
シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803は、線毛構造によって固体表面上を運動し、走光性を示す。私は、正の走光性(positive phototaxis)の調節には、Cheタンパク質などのべん毛運動調節因子や受容体に相同性を示すpixG,-H,-I,-J1,-J2,-L遺伝子群がかかわることをすでに報告した。PixJ1は植物の光受容体フィトクロムの色素結合領域に相同性を示すことから、正の走光性の光受容体と考えられる。これを確かめるために、pixJ1遺伝子産物をヒスチジンタグ融合タンパク質(His-PixJ1)としてSynechocystisで発現させ、単離し、生化学的解析をおこなった。His-PixJ1は、約110kDaのほぼ単一タンパク質として精製され、SDS-PAGEゲルのHis-PixJ1のバンドからは蛍光が検出された。また、亜鉛イオン共存下でバンドからの蛍光強度が増加した。これらの結果は、His-PixJ1はフィトクロムと同様に、開環テトラピロールを共有結合していることを示している。さらに、精製したHis-PixJ1は蛍光励起スペクトルと蛍光発光スペクトルのピークをそれぞれ580nmと630nmに示した。これらの結果は、既知のフィトクロムの特徴と70nm以上の差があることから、PixJ1は新規の光受容体であることを示している。 近年、明らかにされている複数のバクテリアのゲノムから、フィトクロムの色素結合領域に相同性を示すタンパク質が多数見つかっている。これらの領域についてクラスタリング解析をおこなった結果、PixJ1を含む多くのタンパク質で見い出される色素結合様ドメインは、既知のフィトクロムとは異なる系統に属することがわかった。本研究で得たPixJ1のスペクトルが既知のものとは全く異なることから、これらのタンパク質が新規の光受容体である可能性を提唱した。
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