研究概要 |
・血管内皮細胞の接着、遊走におけるラミニン-8の機能解析 血管新生は、血管内皮細胞と液性因子、そして細胞外マトリックスとの相互作用を必要とする複雑な現象である。ラミニン-8は胎児から成体までの全ての血管基底膜に存在するラミニンアイソフォームであり、血管新生の際の細胞接着や遊走に重要な役割を果たすと考えられるが、その役割は十分に理解されていない。そこで私は、血管内皮細胞の接着・遊走におけるラミニン-8の役割を、インテグリンを介するシグナル伝達に注目して解析した。ラミニン-8はラミニン-10/11、フィブロネクチンと比べて細胞接着活性が弱いが、フィブロネクチンよりも2倍も強く細胞の遊走を促進した。インテグリン抗体を用いた細胞遊走阻害実験により、ラミニン-8上での細胞遊走はα6β1インテグリンを介して起こることが明らかとなった。細胞遊走には極性を持った細胞骨格の再編が必要である。そこで私は、各細胞外マトリックス蛋白質に接着した細胞のアクチン骨格と接着斑の染色を行った。ラミニン-8に接着した血管内皮細胞は、ラッフリングの周辺に細かいアクチン繊維の縞と小さな接着斑を形成したが、フィブロネクチンに接着した細胞は細胞全体に太いアクチン繊維の束(ストレスファイバー)と大きな接着斑を形成した。アクチン骨格や接着斑の形成を制御するRhoファミリー低分子量G蛋白質(Rho, Rac, Cdc42)の活性を調べたところ、ラミニン-8に接着した細胞ではフィブロネクチンに接着した細胞に比べてRacの活性化が強く起こっていることが分かった。またラミニン-8上での強い細胞の遊走はドミナントネガティブRacで強く阻害された。これらの結果から、ラミニン-8は血管内皮細胞のRacを強く活性化することにより、α6β1インテグリン依存的な血管内皮細胞の遊走を引き起こしていることが明らかとなった。
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