研究課題/領域番号 |
02041020
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今村 奈良臣 東京大学, 農学部, 教授 (60020525)
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研究分担者 |
松本 武祝 東京大学, 農学部, 助手 (40202329)
山本 宏子 日本民族芸能国際交流協会, 研究員
長原 豊 千葉大学, 園芸学部, 助教授 (10155963)
嘉田 由紀子 滋賀県琵琶湖研究所, 主任研究員
水谷 正一 宇都宮大学, 農学部, 助教授 (70093143)
坪井 伸広 農業研究センター, 研究室室長
中村 尚司 龍谷大学, 経済学部, 教授 (50172424)
平島 成望 明治学院大学, 国際学部, 教授
永田 恵十郎 名古屋大学, 農学部, 教授 (10144693)
小出 進 筑波大学, 農林工学部, 教授 (60003745)
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研究期間 (年度) |
1990
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研究課題ステータス |
完了 (1990年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
1990年度: 3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
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キーワード | スバック / 水利組織 / アジア稲作社会 / 裏庭の経済 / 東南アジア農村社会 |
研究概要 |
1,われわれは、インドネシア・バリ島の棚田農村を訪れ、スバックと呼ぱれる独自の水利組織やその他の農民の自治的な組織が地域農業の発展のために果たしている機能、および農業生産の変化と農家経済の改善に関する状況について調査を行った。以下ではその具体的な経過および内容を簡単に報告する。 2,予備研究会および予備調査 本調査に先だって数回にわたって予備研究会を行い、バリ島農業・農村の基本的な特微を把握することに務めた。また、6月には水谷・松本の2名が予備調査としてバり島を訪れ、現地のカウンター・パートとの打ち合わせ、調査地設定、文献資料収集をおこなった。 3,本調査(1988/8/24〜9/4) (1)トゥワ村調査 バリ島中南部に位置するトゥワ村を訪れ、Tempek GuyangとTempek Pusehというふたつのテンペック(スバックの下部組織)と農家経済の調査を行った。このふたつのテンペックには対照的な点が多い。 すなわち、前者に比べて後者の用水量は相対的に不足気味で、そのために、後者では分水工の数が非常に多い、あるいは排水の設置地点が定められ用水の反復利用が義務づけられている、といった特微がみられた。また、これらのテンペックと行政村・慣習村あるいは他の慣習的農村諸組織は直接的には互いに関与し合うことがない、というバリ島水利組織の大きな特微を確認することができた。10戸ほどの農家経済を調査した結果、1970年代以降農民層の分化が急速に進展してきていることを窺い知ることができた。具体的には、gadaiと呼ばれる用益権付き借地が広範に見受れられたこと、スラウェシ島等への移住が盛んに行われていることにそれが端的に示される。 その要因としては、現金家計支出(とりわけ子弟の教育費)の膨張、均分相続慣習による農地細分化の進展、商品作物(コーヒーや各種果実)の導入を挙げることができる。とくに最後の点は、それらの作物が主として「裏庭」において栽培されているために、「裏庭」面積の大小が農家経済の安定度に直結していくという点で重要な発見であった。ただし、こうした農家経済の大きな変化にも関わらず、耕種部門での機械化はほとんど進展していなかった。 (2)テンガナン村・アサック村 テンガナン村はバリ島南東部に位置し、バリ・アガと呼ばれるバリ島先住民の村として著名な所である。村人は隣接村に広大な共有地を所有し、そこからの小作料収入が重要な生活基盤となっている。小作料収入は村人の生活費として、また伝統的なセレモニー継承のために経費として分配されるが、その分配の仕方は伝統に基づく極めて複雑な形式をとっている。アサック村は、テンガナン村に隣接する「小作村」のひとつである。アサック村にあるテンガナン村作地は特定の小作農が耕作を行い、その権利は親から子へと相続されている。bongsanakと呼ばれる差配がテンガナン村によって任命され、小作農問のさまざまな調整および農業水利の維持管理を行っている。アサック村にあるスバック(Subak Umakahanang)の運営はいくつかの点でトゥワ村の水利組織と異なっていた。トゥワ村の場合は各圃場ごとに厳格な用水配分比率(Tekーtek)が割り振られていたのに対して、本村では用水量が豊富なために用水配分に関する厳密な規定は設けられていない。 また、トゥワ村では見受けられなかった圃場間の掛け流しが本村ではしばしば行われている(これは、小作地作付体系がテンガナン村によって指示されているため)。本村では1978年に高収量稲品種を導入し、その結果イネーイネー間作という作付け体系が確立し、農業生産力が大幅に上昇した。 (3)以上2つの地域の調査を通じて、バリ島のスバックといいながらも地域の自然的社会的諸条件に規定されて、その運営のされ方は多様に富んだものとなっていることが明らかとなった。今後の農業生産力進展のためには、地域に独自な水利組織の特性を生かしながら水利施設の工学的改善が進められることが重要であると考えられる。
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