研究概要 |
1,《現地調査》 平成2年度,3年度にひきつづき,今年度はアメリカ合衆国西部の博物館,美術館を訪問してアイヌ資料の現地調査を行なった。訪問したのは,カリフォルニア大学(バークレー校)ハースト人類学博物館,オレゴン大学美術館と州立博物館,ネブラスカ大学(ピーター・ブリード・コレクション),ワシントン州立博物館,シアトル美術館,カリフォルニア大学(ロサンゼルス校)ファウラー文化史博物館,ロサンゼルス郡立自然史博物館,ビショップ博物館で,合計約300点の資料の観察と計測をし,写真撮影を行なった。さらにオレゴン大学美術館,ワシントン州立博物館,ロサンゼルス郡立自然史博物館,ビショップ博物館では,古い写真類の調査も行なった。 2,《F・スターの日本関係コレクション》 今年度の最大の収穫は,オレゴン大学美術館と図書館に,フレデリック・スターが収集したアイヌ資料を含む大量の日本関係資料が存在することが明らかになったことである。1904年に初来日以来,1933年に東京で死去するまで,スターは合計15回ほど来日し,東京を中心に日本各地を旅行して写真撮影をし,多数の書物等を収集した。そのコレクションの所在を探していたが,遺族がスターの死後に処分売却し,オレゴン大学に引き取られたものと判明した。 スター・コレクションの存在は,オレゴン大学美術館でアイヌ絵の調査中に,知らされた。しかし,予期せざるコレクションとの遭遇であったこと,日程を前以て定めた調査旅行中で時間的予裕がなかったこと,オレゴン大学美術館,図書館の関係者もその詳細な内容について知らなかったことなどから,スター日本関係コレクションの内容の調査にはまったく手を出せず,その内容は未調査のままに残さざるをえなかった。 オレゴン大学関係者の予備的調査とフレデリック・スターの残したシカゴ大学図書館所蔵フィールドノートの記載内容などによると,スターの日本関係コレクションには,明治37年から昭和8年までの約30年間に15回ほど来日したときに撮影した写真類(モノクローム,ガラス板,記録映画など),日本各地の神社仏閣のお札類,和綴じ本,アイヌ絵等が含まれている。写真類はアイヌを写したものを含め,3千点はあると聞いている。もしこの情報が正確ならば,明治30年代後半から,大正時代,昭和初年にいたる約30年間の日本社会の変容を,一人の人類学者が写し続けた貴重な写真記録であろう。何らかの形でスター日本関係コレクションの調査研究を行なう必要があると考えている。 3,《報告書の刊行》 3年間の北米のアイヌ関係資料の調査計画で収集た諸資料は,いま分析,比較の作業を続けているが,今年度末までに,調査活動の報告と現在までに判明した知見をまとめた中間報告を刊行する予定である。 中間報告の内容は,次の通りである。第1章:「在米アイヌ関係資料の民族学的研究」プロジェクト,第2章:北米の主要アイヌ・コレクションの特徴,第3章:北米の主要なアイヌ・コレクション一覧。 第1章では,調査の経過と,今までの研究活動の報告,および,現在までに公にした論文,学会研究発表,研究会発表などについてまとめる。第2章では,第一次世界大戦までに収集されたアイヌ・コレクションをとりあげ,それぞれの収集者,コレクションの背景と内容の特徴について触れる。地域的には,北米東北部,北米東部と中西部の博物館所蔵のアイヌ・コレクションに触れることになる。第3章にはブルックリン美術館,アメリカ自然史博物館,ペンシルベニア大学博物館,国立自然史博物館の4館のアイヌ資料の一覧と,収集した主要な古記録類の一覧を掲載し,北米のアイヌ資料の大多数を提示する。 この中間報告にはアイヌ資料の写真は全く掲載できないので,近い将来,詳細な分析,比較研究を含めた,別の形の写真付きの最終報告の刊行を考えている。
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