研究課題/領域番号 |
02041061
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
立川 涼 愛媛大学, 農学部, 教授 (50036290)
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研究分担者 |
HUE N.D. ハノイ大学, 教授
WAID J.S. ラトローブ大学, 教授
MOWBRAY D.L. パプアニューギニア大学, 助教授
福島 実 大阪市立環境科学研究所, 研究員 (70167617)
渡辺 功 大阪府立公衆衛生研究所, 研究員 (60159241)
河野 正栄 愛媛大学, 農学部, 助手 (50116927)
田辺 信介 愛媛大学, 農学部, 助教授 (60116952)
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研究期間 (年度) |
1990
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研究課題ステータス |
完了 (1990年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
1990年度: 3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
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キーワード | 熱帯 / 地球汚染 / 有機塩素化合物 / BHC / DDT / PCB / 海洋汚染 / 極域汚染 |
研究概要 |
有機塩素系の生物蓄積性人工化学物質は大気を媒体として地球規模で広がり、最終的には海洋がそのたまり場になる。ところが熱帯における化学物質利用の拡大にともない、地球汚染の分布状況はかなり変化しつつあると言われている。高温・多雨の自然条件下における化学物質の使用は、温帯や寒帯と違う環境での移動・集積・拡散が予想される。したがつて地球規模の環境汚染を包括的に理解するには、新しい発生源つまり低緯度地域における化学物質の動態とそこを起点とした長距離輸送の態様を明らかにする必要がある。 そこで本研究では、有機塩素化合物(PCB,DDT,BHCなど)による熱帯アジアの汚染について調査し、地球汚染のソ-スとしての熱帯域の役割を明らかにするとともに、南北西部太平洋およびインド洋の調査も伴せて行ない、この種の物質のゆくえについて考えた。 その結果、インド、タイ、ベトナム、台湾、ソロモン、パプアニュ-ギニアなど熱帯地域の環境試料(大気、河川水、海水、底質、農耕地土壌、食品、生物)から検出される有機塩素化合物は、DDTやBHCなど農薬による汚染が相対的に進んでおり、工業用材料として利用されたPCBの残留はそれほど顕在化していない。しかし都市周辺では、PCBによる局所的な汚染が認められ、熱帯地域への利用の拡大が示唆された。温帯地域と比べると、一般に熱帯の汚染は大気ですすんでおり、水や底質、魚介類の残留濃度はむしろ低い。南インドのベラ川河口域で行なった環境調査の実測値を数値モデルに代入し、集水域における農薬BHCの物質収支を計算したところ、河川へ流出し河口へ到達した量は散布量の1%弱で、残余の大半は水田つまり使用の場から直接大気へ揮散したものと推定された。このことを裏付けるため、南インドの水田でBHCの散布試験を行なったところ、散布後2週間で95%のBHCが大気へ揮散し、水、土壌、稲への残在量はきわめて少ないことが判明した。このように熱帯で使用された化学物質は、速やかに大気に移行する。したがって、沿岸海洋へ与える影響は小さいが、地球規模の汚染に大きな負荷をもたらすことになると結論された。 そこで外洋の調査を行なったところ、この種の有機塩素化合物は全ての調査海域から検出されたが、その汚染レベルには海域および物質によって違いが認められた。大気試料の場合、いづれの有機塩素化合物も南半球に比ベ北半球で高濃度分布がみられ、この種の物質の汚染源が依然として北半球におることを確認できた。しかしながら汚染分布の細部に注目すると、DDTはベンガル湾や南シナ海など熱帯・亜熱帯海域に高濃度分布が存在するのに対し、クロルデン化合物やPCBは北半球内での濃度差が相対的に小さくなっており、こうした化合物の使用が中緯度の先進工学国から低緯度の第三世界へ広がりつつあることを支持している。ところで表層海水の濃度分布はかならずしも大気中の分布パタ-ンと一致しなかった。例えばBHCの場合、大きな汚染源が存在しないと思われる北緯40゚以北の寒帯域で高い濃度分布がみられ、顕著な極域汚染の進行が観察された。一方DDTでは、インド・中国周辺海域で高濃度分布がみられた。 また、外洋環境におけるこの種の物質の動態を理解するために、同一地点で採集した大気・海水試料の実測値から各有機塩素化合物のフラックスを計算した。その結果BHCはベンガル湾、南シナ海、東シナ海といった汚染源周辺で高い値を示し、大気から海水への活発な移行が観察されたが、ここから遠距離にある北太平洋中緯度域、東部インド洋、南氷洋では低い値が認められた。ところが北部北太平洋、アラスカ湾、ベ-リング海、チュクチ海などは汚染源から遠く離れているにもかかわらず大きな平衡のずれを示し、多量のBHCが海洋に流入していることがわかった。これとは対象的にDDTはベンガル湾、南シナ海など限られた海域で高い値を示した。こうした結果はヘンリ-定数の高い物質ほど汚染源から移動拡散しやすいこと、また北極周辺海域が生物蓄積物質のたまり場になっていることを示している。つまり熱帯から放出された物貭は一様に広がるのではなく、特定の海域に集中的に集積するものと結論される。
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