研究概要 |
アジア・太平洋地域に分布する変動帯の中で,西南日本外帯とニュ-ジ-ランドおよびオ-ストラリア東部の付加体の詳細な比較研究をもとにして,付加過程の進行する造構場の全体像を総合的・実証的に検討して,そのテクトニクスを解明することを主要な目的として,今回の調査に取り組んだ。とくに,昭和61・62年海外学術調査によるニュ-ジ-ランド南島ケ-プルス帯の調査の成果を踏え,その周辺を構成するト-レス帯,ハ-ストシスト帯,ダンマンテン・オフィオライト帯との関係を明らかにすることに重点をおいた。さらに,オ-ストラリア東部のニュ-イングランド褶曲帯に分布する付加体の予察的調査・研究をも行った。これらの結果にもとづ き西南日本外帯との付加体の類似点・相違点を明確にすることに留意した。以下に,今回の野外地質調査の概要と,その結果明らかになった事実についてまとめる。 オ-ストラリアにおいては,シドニ-大学のAitchison博士とシドニ-大学滞在中だったマラヤ大学のKhoo博士の案内で,ニュ-イングランド褶曲帯をタムワ-スからポ-ト・マッコリ-へと横断しながら,11のテレ-ンを調査見学した。その結果,Djungati,Birpai,Ngambaのテレ-ンは露頭条件もよく,テレ-ンを構成する地質体の年代や構造,また,テレ-ン間の相互の構造的関係の研究がまだ十分でないことが判明した。そして,それらの問題は付加体形成のテクトニクスと基本的にかゝわっているとして,ニュ-イングランド大学のFlood博士も加えて,今後共同研究を実施することが話し合われた。 一方,ニュ-ジ-ランド南島については,これまでの我々の調査によって,クリスタル・ビ-チ地域に,ケ-プルス帯とト-レス帯の境界が存在する可能性が指摘されていた。すなわち,同地域に分布するChrystalls Beach Complexのうち,南半部のものには多量の凝灰貭の物質が含まれ,放散虫化石はジュラ紀の年代を指示するのに対して,北部に分布するものは砂貭岩を主体とし,放散虫化石もトリアス紀の年代を指示すること,また,砂岩の組成にも差異が存在することが指摘されていた。 従って、今回の調査では、凝灰貭の物質は島弧との関連の強いとされるケ-プルス帯を指示する重要な要素であることから,野外調査と平行して,オタゴ大学で岩石薄片を製作しながら検討した。その結果,堆積物と同時に形成されたphosphateの団塊からglass shards,が確認されたことから,地域の南半部に分布するChrystalls Beach Complexには,確かに,多量の凝灰貭の物貭が含まれることが明らかになり,今度,火山岩との関連を検討するため化学分析を行うこととなった。 放散虫化石は年代を検討するために大変重要であるが,Chrystalls Beach地域の放散虫化石は,そのほとんどが従来知られていなかったもので,これは,その形態の特微などから,南半球の高緯度地帯を代表する群集である可能性が高いことが考えられた。そこで,従来全く研究のない,これらの放散虫化石について詳細な生層序学的研究を行うために出来るかぎりの試料を収集した。 その他,メランジュ性の地貭体に含まれる緑色岩の生成環境を明らかにするために行う化学分析用の試料,堆積場の違いを明らかにするために化学分析を行う砂岩の試料,放射年代を検討するための泥貭岩の試料,さらに,構造要素を検討するための泥貭岩の試料などを多数収集した。 今回の調査で,Chrystalls Beach Complexは全体としてほゞ水平に近い構造を形成しており,緑色岩類やチャ-トを含むメランジュ性の地貭体も一つの層準を形成していること,南側の地貭体が北へ乗し上がる構造を形成していることが判明した。西南日本外帯の付加体は高角度の構造をもち,海洋プレ-トの沈み込みに伴って順次形成されたのに対して,Chrystalls Beach Complexは,大陸と大陸の衝突によって,両大陸の間で形成された付加体と推定される。
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