研究課題/領域番号 |
02041068
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
東 和敬 佐賀大学, 教養部, 教授 (50089918)
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研究分担者 |
朱 耀沂 国立台湾大学, 植物虫害研究所々長, 教授
生方 秀紀 北海道教育大学, 教育学部, 助教授 (60125367)
木元 新作 久留米大学, 医学部, 教授 (20080963)
CHU Yau-i Department of Plant Pathology and Entomology, National Taiwan University.
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研究期間 (年度) |
1990
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研究課題ステータス |
完了 (1990年度)
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配分額 *注記 |
2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
1990年度: 2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
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キーワード | 森林生態系 / 生態分布 / 繁殖システム / ハムシ類 / トンボ類 / 垂直分布 / 縄ばり / すみわけ |
研究概要 |
台湾における昆虫類の生態分布を解析するために、その手始めとしてハムシ類とトンボ目の垂直分布を調査した。調査地点は、石碇(海抜高度、250m)、竹崎(300m)、内双渓(300m)、烏来(350m)、日月潭(760m)、南山渓(800m)、魯山温泉(1200m)、奮起湖(1400m)、松崗(2000m)、阿里山(2300m)の11箇所である。 ハムシ類は、95種(亜種を含む)、842個体を採集した(目撃個体を含む)。ハムシ類は通常の一つの科として取り扱われ、さらに17の亜科に区分されている。各調査地点における亜科構成は、採集した標本について亜科別の種類数を計算し、種類の合計が17種を超える6調査地点について検討した。その結果、台湾において優性なハムシ類は、ヒゲナガハムシ亜科とノミハムシ亜科に所属する種類であること、また、標高の上昇につれてヒゲナガハムシ亜科に比較して、ノミハムシ亜科の比率が上昇する傾向があることがわかった。 トンボ目は、上記の調査地点に嘉義(蘭潭水庫)と触口(嘉義の東部約15km)を加え、38種(亜種を含む)、243個体を採集した(目撃個体も含む)。トンボの多数捕獲は一般に難しいので、今回の標本だけで定量的な分析をするのは困難である。しかし、今後の検討課題が幾つか明らかになったので、その例を次に述べる。台湾にはシオカラトンボ属は9種(亜科も含む)生息している。日本にも同じ種数が生息しているが、これは日本列島が南北に長ため、温度条件だけを見ても幅が広く、季節的・地域的なすみわけを可能にしているためと考えられる。台湾だけで9種の生息を可能にしている生態分布の要因を明らかにするのは興味深い。カワトンボ科のシロオビカワトンボとキヌバカワトンボは台中県を境にそれぞれ南北にすみわけをしていることが指摘されていたが、今回の調査でもそれが裏付けされた。すみわけの要因を明らかにするためには、両種の行動・生態の観察から始めるのがオ-ソドックスな方法である。 トンボ類の繁殖システムの材料は、コナカハグロトンボ(E. yayeyamana;南西諸島の石垣島、西表島に生息する)の観察結果と比較検討するため、近縁種のナカハグロトンボ(Euphaea formosa)を選んだ。観察場所は、台北から南東に約20kmに位置する石碇である。観察期間は、8月9日〜13日(12日を除く)の4日間で、この期間に、このトンボの個体識別をするため、合計で雄211匹、雌9匹のマ-キングを行った。 雄は産卵基質(水に浸った枯れ枝やダンチクの茎等)を資源として縄ばりを占有した。縄ばり防衛のための闘争行動は、いくつかのパタ-ンにわけられたが、コナカハグロトンボのそれと大変類似している。他のトンボに見られない両種の特徴は、停止飛翔の状態で向い合って、左右に30度位のロ-リングしながら前・後進をする行動であった。観察場所では、雄の平均個体数は108.5匹(1日当り)で、産卵基質数(水に浸った枯れ枝等)の53箇所よりもはるかに多かった。したがって、好適な産卵場所では縄ばりが解消され、8匹前後の「集団待機」が観察された。 交尾は、雌が両岸の林縁部から現れた時、雌が産卵の途中で水面に上がってきた時に行われた。共に、雌に気づいた雄がは飛び上がって空中で連結態となり、交尾態になって付近の岩の上にとまる。交尾ペア-が産卵場所に近づくと、雄達に干渉されて他の場所に移動することが多い。産卵までは、通常、2・3の産卵場所を訪れ、水しぶきが立つ流速の速い所に産卵基質があると、水際にとまって交尾態をといて連結態になる。雌が水中に入ると雄は連結態をといて雌を放す。雄は水面近くの位置にとまり、その雌を警護する。 警護中の雄は付近の雄を盛んに追うが、他の雄も飛び立たずに攻撃を回避しているうちに「集団待機」にもどる。雌は産卵の途中・終了のどちらであっても、水面に上がってくるので、これが「集団待機」の雄達にとっての交尾のチャンスとなる。 繁殖システムはコナカハグロトンボと大変類似しているが、観察期間が短いので結論は下せない。今後は河川周辺の植生や河川での産卵基質の質・量と空間分布を比較して、繁殖システムに与える影響を明らかにすることが研究課題となる。
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