研究課題/領域番号 |
02041073
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
渡辺 勝彦 日本工業大学, 工学部, 教授 (50049706)
|
研究分担者 |
黒津 高行 日本工業大学, 工学部, 専任講師 (20215114)
波多野 純 日本工業大学, 工学部, 教授 (40049721)
|
研究期間 (年度) |
1990 – 1991
|
研究課題ステータス |
完了 (1991年度)
|
配分額 *注記 |
8,000千円 (直接経費: 8,000千円)
1991年度: 3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
1990年度: 5,000千円 (直接経費: 5,000千円)
|
キーワード | ネパ-ル / 文化財保存 / 僧院建築 / 解体調査 |
研究概要 |
ネパ-ルは、南アジア建築の中でも独自の伝統的な建築物を多く残し、それらは世界の文化史上にも貴重な文化財とされるが、保存が充分でない。この研究では、特に古代以来の平面を現在に残す貴重な存在でありながら、急激に失われてきている仏教僧院について、保存すべき対象を選定し、伝統的建造物を構築している技術を遺構を解体して具体的かつ詳細に記録し、明らかにした上で、保存対策を講じる。 対象としてはパタン市のI BAHA BAHIを選んだ。平成2年度には、その半分を、ネパ-ル政府考古局と共同で平成2年11月から平成3年1月にかけて解体し、遺構の調査を行なった。全体の復原計画には日本の文化庁がネパ-ル政府に技術協力し、解体はその指導を得て記録を取りながら、屋根・2階木部軸組・2階れんが壁・床組・1階木部軸組・1階れんが壁・木礎の順に着実に行ない、無事終了することができた。 解体の結果、建築の構法を知りえたのはもちろん、れんが積の手法から少なくとも3度の造替を遺構から読取ることができた。これを歴史史料の知見と照合し、遺構の年代を確定したい。また、崩れた部位の状況から構造の弱点を知り、復原保存の手がかりを得ている。さらに、平面の設計概念を推察することが可能になった。 平成3年度においては、解体した半分の建物について、用いられた建築技術を解明しつつ、復原設計をより具体化して詳細図をつくり、復原を実施に移していった。建物の復原と同時に、現存技術と伝統技術の齟齬を掴み、復原すべき技術は回復を計っていった。具体的には次の諸点である。 (1)設計寸法、計画法については、基準格子をもとに平面が設計されたと考えられた。基準格子は、中庭側柱間を1単位とする正方形格子で、11×11で展開されている。基準格子の1単位は5単位長で、1単位長は420mmほどである。この原則に基づいて図面作製をした。 (2)れんがの寸法は、遺構のれんがの寸法、上記の寸法、および全体長さから割り付けを考証し、その積み方は地中の基礎に残存していた整った積み方を採った。 (3)彫像は失なわれたものは、その群としての構成を残存している彫像の同定から考察し、その意匠性を検討して、参考とし、復原すべきものは実施することとした。 これらの保存対策のほか、改良すべき点として、脆弱な構造の改良のため、基礎の地耐力検査にもとずく設計、れんが壁臥梁の改良、間仕切り壁の構造化などを考古局のスタッフとともに検討した。また、柱は外見上は問題ないが、内部はほとんどの根元が腐っており、これを真実性をより確保する根継ぎの手法を考察し、下からの湿度よけとなじみのため、鉛板の設定、などを進めた。 保存対策としては、個々の復原保存技術ばかりでなく、作業を実施・運営して行く組織とその能力が大事である。この点も実施を試みながら観察していった。結果としては、工程を組み立てること、材料を供給すること、会計など事務処理いずれも弱体であって、保存のためにはこの方面の強化が必要であることが新たに判明した。特に考古局は約束に反して木材を供給しないままであり、復原を実施するペ-スは大幅に遅れ、このため当該年度に着手する予定であった残余の部分が事前調査で終ってしまったのは残念なことである。 解体した建築からは伝統技術が組織的かつ精緻であり、その結果が建築の芸術性を高めていることが、より鮮明になった。いっぽう現在のネパ-ルには逆にこうした美点が建築にほとんど残していないし、運営組織・技術も極めて鈍い機能しか持っていない。一度こうした技術を失うことの怖さを痛感した。復原により文化遺産が次代に受継いで行くことに今後も努力したい。
|