研究課題/領域番号 |
02041100
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
山本 紀夫 国立民族学博物館, 第4研究部, 助教授 (90111088)
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研究分担者 |
稲村 哲也 愛知県立大学, 文学部, 助教授 (00203208)
結城 史隆 八千代国際大学, 政治経済学部, 助教授 (80210582)
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研究期間 (年度) |
1990
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研究課題ステータス |
完了 (1990年度)
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配分額 *注記 |
4,000千円 (直接経費: 4,000千円)
1990年度: 4,000千円 (直接経費: 4,000千円)
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キーワード | 環境利用 / ネパ-ル・ヒマラヤ / 中央アンデス / 民族学的研究 / 高度差利用 |
研究概要 |
本調査の目的は、研究代表者らが中央アンデスにおいて行ってきた環境利用の研究成果にもとずき、ネパ-ル・ヒマラやにおいても環境利用の実態調査を行い、これら両地域の調査結果を比較研究のうえ、山岳地域での環境利用の特性を民族学的に明らかにすることである。ネパ-ル・ヒマラヤと中央アンデスは、ともに亜熱帯低地から氷雪地帯に至る大きな高度差を有する長大な山脈であり、平坦地が少なく、傾斜地が多いなど環境面で共通した特徴を持つ。したがって、従来の研究でも、両地域における環境面での共通性が強調され、また環境利用の方法においてもその類似性のみが指摘されてきた。 しかし、本研究の代表者および分担者たちは中央アンデスにおける調査結果およびネパ-ル・ヒマラヤの文献資料の分析から、両地域における環境利用の方法にはきわめて大きな違いがありそうなことに気付き、この違いに注目して本調査は企画された。すなわち、中央アンデスでは世帯あるいは集落レベルで4000メ-トル近い高度差を利用して自給自足体制を維持しているところが少なくないが、ネパ-ル・ヒマラヤではこのような環境利用の方法は見られないか、見られたとしてもきわめて少さいのではないか、と本研究班では考えていたのである。 したがって、調査の実施にあたってはとくに次の2点に焦点をあてた。 (1)ネパ-ル・ヒマラヤでは、中央アンデスのように同一民族が大きな高度差を利用する環境利用の方法は見られないか。 (2)もし、見られないとすれば、なぜ類似した環境をもつ両地域で、異なった環境利用の方法が行われているのか。 調査は、ネパ-ル・ヒマラヤ東部山岳地域のカンチェンジュンガ山麓および中部山岳地域のランタン谷、さらにカトマンズ周辺の丘陵地帯で行った。当初、調査を予定していたネパ-ル・ヒマラヤ極西部地域は、時間的・予算的制約などのために断念したが、このかわりにランタン谷で調査を行った。このように比較的短期の調査期間にもかわらず、広域で調査を行ったのはネパ-ル・ヒマラヤ地域全体での人間と環境のあいだの関係を統一的に理解しようと意図していたからである。 本調査によって得られた成果の主要な点は、以下のとおりである。 (1)ネパ-ル・ヒマラヤでは、中央アンデスのように同一民族が大きな高度差を利用する環境方法はほとんど見られなかった。 (2)その最大の理由は、きわめて同質的な社会である中央アンデスに対して、ネパ-ル・ヒマラヤは数多くの民族が住み、限られた地域だけでみても、いくつもの異なった民族によって構成される複雑な社会を形成しているからであると考えられる。そして、このような違いが環境利用の方法にも反映されている、と判断される。 (3)このようなヒマラヤ地域で、例外的にシェルパ族のみが比較的大きな高度差を利用した環境利用の方法をとっていることが判明した。 以上の結果から、類似した環境であっても、そこに住む民族の構成や社会のあり方によって、環境利用の方法は大きく異なるとの見通しを得た。さらに、この結果はネパ-ル・ヒマラヤと中央アンデスのそれぞれの地域における環境利用の特性についても、見通しを与えるものとなる。とくに、ネパ-ル・ヒマラヤにおける環境利用の特異性が明らかにできれば、同地域で最近深刻な問題となっている環境破壊の社会的・文化的背景についても明確にできる。その結果、環境保全にたいする基礎的な資料を提供することができるため、本調査は現地関係研究者の関心を集め、その成果の刊行が待たれている。ネパ-ルは近年同国の発展に貢献できる調査に優先的に調査許可を与えているため、その意味でも成果の刊行はできるだけ速やかに行いたいと考えている。
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