研究分担者 |
李 建波 中国医学科学院, 血液学研究所, 研究員
V Shanta Madras Cancer Institure (マドラス癌研究所), 所長
M Bhargava All India Institure of Medical Science, H, 教授
上田 龍三 愛知県がんセンター, 研究所, 部長 (20142169)
菊池 昌弘 福岡大学, 医学部, 教授 (80078774)
BHARGAVA M. All India Institute of Medical Science
SHANTA V. Madras Cancer Institule
LI K. Inst. Hematology, Chinese Academy of Medical Sciences
SHANTA V. Cancer Institute, Madras(マドラス癌研究所), 所長
BHARGAVA M. All India Institute of Medical Science H, 教授
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研究概要 |
1.研究背景 米国における濾胞性リンパ腫は全悪性リンパ腫の35%(対10万人口当たり3.4人)を占めるが,本邦では約5%(対10万人口当たり0.2)と非常に少ない。また,米国の濾胞性リンパ腫は約85%に14;18転座やbcl-2遺伝子再構成がみられるが,本邦症例では転座や再構成頻度は30%と非常に低い。また,慢性リンパ性白血病の発生頻度も本邦では非常に低い。このように本邦のリンパ性造血器腫瘍には明らかな地理病理的相違がみられる。本研究はこのような相違がアジア系人種に共通してみられるかどうかを日・中・印の症例解析より明らかにし,リンパ性造血器腫瘍発生機構の解明に資することを目的とした。 2. 研究成果 (1)濾胞性リンパ腫 i.インド(ニューデリー地区とマドラス地区)においても本症の発生頻度が本邦同様,非常に低いことが明らかとなった。全悪性リンパ腫に占める比率は約9%である。 ii.染色体解析:本邦例では15例中6例(40%)に14;18転座がみられ,4例に他の異常が,5例では正常核型を示した。米国に比し14;18転座陽性症例が低率であった。印度症例の4例について検査が可能で,14;18転座陽性例はみられなかった。 iii.遺伝子解析:サザンブロット法を用いた場合,本邦症例の濾胞性リンパ腫11例中5例,45%にbcl-2遺伝子(mbr,mcr,5'の3プローブ)再構成がみられ,米国の症例に比し再構成率が低いことを確認した。bcl-2遺伝子再構成はmbrプローブのみで検討されており,mcrや5'プローブでは一例も検出されておらず,米国症例での検出率と異なる所見が得られた。尚,myc遺伝子再構成は全例認められなかった。また,PCR法を用いた場合,主にDNA保存のない症例の病理用パラフィンブロックより低分子DNAを抽出し検出したが,本邦症例は27症中3例,11.1%にmbrプローブによるbcl-2遺伝子再構成が見出され,印度症例では31例中3例,9.7%に再構成が検出された。これはサザンブロット法同様,米国症例より低い検出率を示した。尚,印度症例については濾胞性リンパ腫以外の悪性リンパ腫10例(びまん性8例,リンパ芽球性2例)についてもPCR解析を行ったところ,2例にbcl-2遺伝子再構成が認められており,印度症例は病期の進んだ状況が初めて診療を受けているが推定された。 (2)慢性リンパ性白血病 i.印度においても本症の発生頻度が低率であることがわかった。 ii.染色体解析:本邦においては,症例数が少ないため染色体解析のまとまった報告はまだない。このため厚生省大野班班長および班員の援助を得て過去2年間に48症例を収集し,解析した。クローン性の染色体異常は47.9%の症例にみられ,米国症例に比べやや低い。クローン性異常として14q32の異常,18q21異常がみられたが,米国症例に高頻度にみられる+12の異常は本邦では17.4%にしかみられず,差異がみられた。中国の5症例のうち2例は正常核型を示し,残り3例は解析中である。印度の10症例も現在解析中である。 iii.遺伝子解析:本邦55症例についてbcl-1,bcl-2(mbr,mcr,5'),bcl-3遺伝子の再構成の有無を検討した。bcl-1遺伝子は11q13に異常をもつ1例にのみ再構成がみられ,5'プローブで2例(3.6%)に遺伝子再構成がみられた。5'プローブでの陽性頻度は米国症例とほぼ同等である。5'プローブ再構成例の染色体所見はそれぞれt(2;18)(p12;p21),t(18;22)(q21;q11)および正常核型であった。t(2;18)およびt(18;22)症例の遺伝子配列を決定したところ,前者ではIgLκ鎖遺伝子しbcl-2遺伝子のhead totail結合であることを,また後者ではIgLλ鎖遺伝子とbcl-2遺伝子のhead to headの結合であることが明らかになった。 まとめ:日本およびインドにおけるリンパ系悪性腫瘍は細胞遺伝学的ならびに分子生物学的研究より欧米と異なる病態を有することが明らかにされた。
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