研究概要 |
アラスカ北極圏と亜北極圏の湖沼では,細胞が微細で脆弱なために分類形質が未解明の鞭毛藻類や小形珪藻類が優占する。電子顕微鏡手法を利用し,アラスカの微細藻類を主とした藻類相とその季節変化,低温環境との関連における藻類の表現型の変異性,生理的反応と適応を調べる。特に湖の氷が融けはじめ,湖水が動きはじめ,藻類が活動を開始する4月に,これら微小藻類の初期発生の実態を明らかにし,さらに,極地湖沼の水中に多産する水生蘚類に付着する藻類相を,藻類ならびに蘚類の生育の最適期に把握し,そして,日本やアメリカにおけるこれ迄の研究結果との比較において,これらの藻類の分類形質や分布などの特性を明らかにすることを目的にして,本年4月から5月と,8月の2回,アラスカ州フェアバンクス市所在のアラスカ大学海洋研究所に拠点をおき,採集調査旅行と試料整理を実施した。各共同研究者は,持帰り試料の電子顕微鏡研究や水質分析作業やデ-タの解析を行っている。 採集・調査地点,日程,採集試料。 (1) 4〜5月調査 フェアバンクス市内湖沼(北緯64.5度)調査。自動車にて移動。タイガ地帯を代表するスミス湖とバレ-ン湖にて,4月23,27,5月2,10,16日の5回の調査採集を行った。4月の2回の採集時には湖面が厚さ約40cmの氷で覆われており,手動アイスオ-ガ-を使用し,凍結時の表層と底層からの採集が実施できた。30本の試料を採集した。パクソン湖沼群(北緯63度)調査。自動車にて移動。4月24〜25日と5月5〜6日の2回実施したが,2回の調査とも雪のために道路が一部通行不能であり,またパクソン湖やサミット湖は厚さ1mの氷で覆われており,採集が不可能であった。採集が実施できたのは,バ-チ湖,コ-ツ湖の2湖であった。20本の試料を採集した。合計115点の試料を採集した。 (2)8月調査 浮遊藻類の採集に加えて,水生蘚類付着藻類の採集を重視した。フェアバンクス市内湖沼調査。自動車にて移動,スミス湖とバレ-ン湖にて8月23日,その他に8月3日から15日の間,市内にある4池沼から水生蘚類を採集した。水試料12点,水生蘚類548点を採集。パクソン湖沼群(北緯63度)調査。自動車にて移動。8月16日から17日にパクソン湖とサミット湖,8月27日から28日にはハ-デング湖,バ-チ湖,コ-ツ湖の調査を実施し,水試料25点と水生蘚類181点を採集。バロ-地区(北緯71.4度)調査。8月18日から20日実施。航空機にて移動,自動車を使用して採集。バロ-地区の最北端のヌウク湖とその周辺,海岸線に並ぶ汽水湖と淡水湖,及びツンドラ地帯に散在する淡水湖沼から,水試料35点と水生蘚類274点を採集した。合計水試料72点,水生蘚類1,003点を採集した。水試料は2回の採集で合計112点となった。 水試料採集は瓶汲取法と,布目5mum,20mum,50mumの3種プランクトンネット法で行った。同時に環境要因として気温,水温,pH,塩分濃度を測定した。他に簡易自記温度計を用い,バロ-地区のツンドラにある池で,8月18日から19日の2日間,タイガのバレ-ン湖では8月5日から17日の13日間の気温,水温連続測定を実施した。 藻類相について:スミス湖バレ-ン湖ともに4月23日にはすで微小鞭毛藻類が活発に活動しており,両池ともChlamydomonasが優占し,Cymnodinium,Euglena,ラン藻,Mallomonasなどが見られた。5月にはいり氷が消失すると,種類相は急に増加し,スミス湖ではEudorina,Peridiniumが優占し,MallomonasやSynuraも増える。次の週にはMallomonasが優占し,ラン藻や珪藻が目立ってくるが,動物のミジンコが急増した。一方,近くのバレ-ン湖では,5月にはMallomonasやSynuraが増えるが,次の週には黄金藻のシストが多く,種類相は急変した。また、アラスカ新産の黄金藻が10種再見された。これまでの極地湖沼藻類相の研究では,藻類の活動開始時期や結氷下での藻類相の実態の解析が全く行われていない。この最も重要な点についての解明には,もっと早い時期での調査が必要である。本研究では,残念ながら研究時期が遅かったために十分なデ-タが得られず,次の機会をまつほかはない。
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