研究分担者 |
徐 炳声 復旦大学, 環境資源生物系, 教授
顧 志健 中国科学院, 昆名植物研究所, 研究員
李 恆 中国科学院, 昆名植物研究所, 教授
HSU Pingsheng Environmental and Resources Biology, Fudan University
GU Zhijian Kunming Institute of Botany, Academia Sinica
|
研究概要 |
日華植物区系に分布する広義のユリ科(Liliaceae sensu de Jussieu)の核型とその進化を考察するために、てはじめとしてParis(ツクバネソウ属)、Lycoris(ヒガンバナ属)、Cardiocrinum(ウバユリ属)を対象として研究をした。 1.日本固有種であるP.tetraphyllaのCーband patternとその変異が解明されCYTOLOGIA(55:301ー312,1990)に発表した。種特異的なbandと個体特異的なbandが存在した。栄養器官の形質と異なり、その変異にはクライン現象は見られなかったが、数対の染色体のband patternの収斂現象が観察された。 2.P.tetraphyllaの花粉の彫紋の種内変異を研究し、その結果はBOT.MAG.TOKYO(103:383ー390.1990)に発表した。変異パタ-ンは7型に類別でき、日本列島における各型の分布にはある程度の偏りがあった。これはこの種の繁殖様式と繰り返された氷河期における地理的隔離の歴史を反映しているものと考えられた。 3.P.verticillataとP.tetraphyllaのCーband patternを染色体画像解析装置(CHIAS)により解析し、客観的標準核型を決定した。それぞれの種に固有の分節構造が見いだされた。また前者のD染色の長腕には"fragil site"とおぼしき不染部がある。この成果はJPN.J.JENET.(66:335ー345,1991)に発表した。 4.中国産Paris属の15分類群のCーband patternを解明した。熱帯産のP.luquaensisなどの幾つかの種に多量のCーbanding positive heterochromatinが存在するが、P.thibeticaのようにこの異質染色質がほとんど無いものもあった。これらの成果はCYTOLOGIA(57:000ー000,1992)に投稿中で、既に受理されている。 5.日本に固有の種で氷河期の遺存種といわれるP.japonicaのband patternは大変複雑で、近縁属であるTrilliumのそれと似た点もあるが、両属間の雑種として生じた高次倍数体とは考えにくい。現在の分布から見て、独自に進化したグル-プの生き残りであろう。 6.長崎産L.radiataから得られた種子から大きな欠失をともなう2n=32の個体が出現した。三倍体が種子で繁殖した珍しい例である(La Kromosomeo 57:1926ー1930,1991)。 7.中国および韓国より入手したLycorisの核型とCーband patternを観察するとともに分類学上の問題点を検討した。その結果以下のような成果が得られた。(1)L.anhuiensis,2n=16=6M+10T;L.aurea,2n=15=7M+8T;L.cardwellii,2n=27=6M+10T+11A;L.chinensis,2n=16=6M+10T;L.haywardii,2n=22=22A;L.koreana,2n=22=22A;L.longituba,2n=16=6M+10T;L.rosea,2n=22=22A;L.radiata,2n=22,33=22A,33A;L.straminea,2n=19=3M+5T+11A;L.spー1,2n=16=6M+10T;L.spー2,2n=33=33A;L.spー3,2n=19=3M+5T+11A;L,spー4,2n=16=6M+2sbM+8T;L.spー5,2n=19=3M+lsbM+4T+11A;L.spー6,2n=30=3M+lsbM+4T+22A.(2)spー1は中国においてL.aureaと混同されているが、明らかに別種である。spー2はL.radiataと同定されて来たが雑種性の三倍体である。spー3もL.albifloraと混同されているが異なる分類群である。spー4〜spー6はいずれも韓国産で、spー4はL.aureaとされているがL.chinensisに近縁な未記載の分類群であり、spー5とspー6はL.koreanaとspー4との間に形成された雑種であろう。これらの成果は平成3年度の日本植物学会と植物分類学会で報告した。 8.spー1には2〜6個のB染色体があった。LycorisでのB染色体の最初の発見である。このB染色体はT型染色体の特定の部位(Bーorganizer)から生産される。B染色体の起源の問題に一石を投じる発見である。 9.今回の共同研究の今一つの重要な成果は中国昆明植物研究所、復旦大学生物学系、杭州植物物などの学者たちとの間に緊密な友好関係を結ぶことができたことである。今後のさらなる共同研究が期待できる。
|